「ごめんね」 出来うる限 り辛そうな顔を不二はつくってみせた。 彼の側にいる少女の方は、幾分驚い た顔をする。 「貰ってくれるだけでいいんだけど・・・」 よく 見れば可愛い顔立ちをしている。 彼女は、丁寧に包装された綺麗な箱を手に 持っていた。 「ゴメン。好きな子がいるんだ」 今度はいくらか はっきりと、拒絶した。 それで、少女はやれやれといった感じで深く溜め息 を吐いた。 「ぢゃあ、仕方ないっか。・・・初めてだね、こんなこと。 不二君って今まで彼女居ても、チョコだけは貰ってくれていたから。 ・・よっぽど好きなんだ、そのこの事」 「うん」 その、ハッキ リとした答えに少女は苦笑した。 羨ましいなぁ、そのコ。ぢゃあ、またね。 あっさりと笑って去っていくその姿に申し訳なさを感じた。 だが、 そう思うのは、相手に失礼なのかも知れない。 気まずさを残したまま、 ぼんやりとその場に佇む。 「不〜二、見〜ちゃった。悪い奴ぅー」 不意に、背後からした声に振り向くと、クラスメイトでチームメイトで 悪友の菊丸が立っていた。 「何が?気も無いのにチョコ受け取る方が失 礼ぢゃない」 「まあ、そう言っちゃそうなんだけどさ。で、誰なんよ 不二の愛しの君っ て」 と、菊丸がイタズラっぽい眼で笑った。 今までどんな美女 と付き合っても、自分から何一つ固執しない, まさに来るものは拒まず、去 るものは追わずの態度を決め込みつづけた彼。 そんな彼が、初めて固執 したというのは一体どれ程の美人なのか。 「年上?年下?あ、もしかし て他校?」 興味津々で聞いてくる菊丸に、不二は笑って答えた。 「年下。エージも良く知っていると思うけれど、可愛い子だよ」 え! ?マジ?と、菊丸は驚く。 「そんな可愛い下級生の女の子いたっけ。し かも、オレも知ってんだろ? 限られるよなー」 暫く悩んだ末、と うとう菊丸は、ねをあげた。 「うーっ、わっかんね―――!!教えろよ 、不二」 「仕方ないなー。でも、教えてあげるんだから、その子に手を 出さないでよ」 いつも、どっちかというと手を出すのが早いのはお前の 方ぢゃン。 と、危うく口に出そうになったのを必死で止めて、菊丸は了解を 示した。 「ぢゃあ、言うけど。越前君だよ」 「ああ、おチビか 。成る程――、確かにスッゲー可愛いよな。 生意気だけど、其処がまた・ ・・・・・」 「どうしたの?」 「フ・・・不二・・・・。オマ エ、おチビちゃんが、好きなの?」 にわかに信じ難いといった表情で、菊丸が不二を見る。 一方、不二 はごく当たり前のように 「うん、可愛いでしょう」 と、言った。 ああ、期待のルーキー越前リョーマは確かに可愛い。 極めて整っ た顔立ちをしていた。 あの、生意気な性格を差し引いてもまだ、可愛い といえる。 意志の強そうな大きな瞳に、綺麗な黒髪、白い肌、紅い唇 まるでお伽話に出てくる何処かのお姫様みたいだ。 そういや、そんな 事を本人にいったらとても怒られたことがあった 彼以外のレギュラー陣は非 常に納得していたけれど。 て、そうぢゃなくて 「可愛いけどさ ・・おチビちゃんは男の子だよ?」 「知ってるよ、それくらい。それと も何?エージには女の子に見える?」 「見えね―よ!好きって・・・」 ごにょごにょと、言い難そうに菊丸が言葉を紡いだ。 「恋愛感 情なの?そのサー―、セッ・・」 「・・・いずれは、身体を重ねる事も 望んでいるけれど?」 流石、古典を得手とする不二である。 言葉を ぼかしてはいるものの確実に意向を伝えた。 「そんときって、不二が上 なの?やっぱり」 「当たり前の事言わないでよ。なんで僕が抱かれなき ゃなんないの」 ジーザス。 やはりか、と菊丸は溜め息をつ いた。 そして、短くは無い彼との付き合いの経験から、この不二という 男が 一度決めた事をあきらめる訳がないと、直感する。 ああ、頑張 ってくれおチビちゃん オレにはこいつを止める事など出来ない 菊丸はそう思ったがおそらく、他のメンバーだってそうだろう 頼れない 先輩でゴメンヨ(合掌) 「ぢゃ、越前君を探しているから、またね」 さっきのこと忘れないでよ、と念をおして不二は颯爽と足早に去っていっ た。 あとに残された菊丸は、ただ可愛い後輩の武運を願わずには居られ なかった。 あ、居た居た。 暫く校内を歩き回った不二 は、ようやくリョーマを見つける事が出来た。 時刻は、夕刻に近く空は 燃えるような見事な紅玉色で佇む二人を照らしていた。 「部活には行か ないの、越前君」 極めて穏やかな声で不二は靴箱に寄りかかっているリ ョーマに問いかける。 「今日、家に誰も居ないから早く帰ってこいって 、親父が。 バレンタインだから母さんと食事するんだって、いい年こいて 。 部活行きたいンすけどね、オレは。」 つまんない、とぼやく顔 は年相応の幼さで映る。 やっぱり、可愛いなあと思わず不二は笑みをこ ぼした。 「そういや、先輩は?部活行かなくていいの?」 「あ あ、今日は君に用があるから」 「オレ?」 一体何のようだ? 思い当たる節の無いリョーマは怪訝そうな顔をする。 「何すか?」 身長差のため、図らずもリョーマは不二を上目遣いで見上げる形となる。 不意打ちとも思えるソレに不二は鼓動が早くなるのを感じた。 僕を此処まで振り回すのは君位のものだと思う。 覚悟は決めてきたはず なのに、心の何処かで未だ躊躇する自分がいるのに、不二は気付いた。 「にわかには、やはり言い難いものだね。とりあえず、これ」 そういっ て、不二は自分の鞄から割と大きめの綺麗な紙袋を取り出した。 「何? コレ」 「越前君にあげる。チョコレートだよ、変なものぢゃないから安 心して。 どんな物が好きなのか分からなかったから、取りあえず色んなの を買ってみたけど」 「そうぢゃなくって!!なんで・・・」 「 分かってるよ。ちゃんと言う。 越前君、君のことが好きなんだ。付き合っ てもらえないかな?」 「!!」 ようやく、リョーマは不二の意 図を理解した。 えっと、つまり。 この人は、オレの事好きだか らチョコをくれて。 その好きっていうのは、前後のことから考えてLike でなくて、Loveの方みたいで。 オレとつきあいたいとうのは、つまり 恋人としてってコト? うわあ。 普通なら同性から告白されて も心地よいものではなかった。 現に、アメリカでもそういうことあったけど 断ってきたし。 だが、断りきれないとリョーマは思った。 この 人だけは何だかそれを実行するのが、痛い。 綺麗な人だなあと、あらた めて思った。 部活や試合のときも思った事があるけれど。 日本 人にしては、色素の薄い髪や肌、瞳。 しなやかな肢体。 その、 柔らかそうな外見にそぐわず実は一筋縄でいかない性格。 もし。 もし、この彼の要求を受け入れれば この綺麗な人はオレのものになるんだ オレだけの、先輩。 それは、退屈なんかから無縁そうだし、と ても魅力的かも知れない そう思っているとソレを途惑いと受け取ったの か 不二は、優しくリョーマの髪をすいた。 「急に、ゴメンネ。ビッ クリしたでしょ」 リョーマはあわてて首を振った。 「べ・・別 に。ただ、先輩ならこんな回りくどいことせずに、行動で示しそうだから・・」 「・・・それは、行動で示した方が良かったってコトかなあ?」 「!!っ違うけど!!」 「・・・・・・・・・・・・君には嫌われた くないんだよ」 「!!!」 今度は、リョーマの方が不意打ちを 食らった。 絶対、分かっててやっているんだろうけど、そんな顔ズルイ 。 胸が締め付けられる感じがする。 何だかんだいっても、この人の 罠に 掛かっている気がするのは気のせいだろうか? 「待ってて、靴 をとってくるから一緒に帰ろう」 そういって不二は、くるりと踵を返し た。 「はい」 間を入れず、肯定したのは咄嗟のことだったからだ、 そう思いたい。 待つまでも無く、すぐに不二は現れた。 「お待たせ、送っていくから越前君の方面から帰ろう」 さり気なく、 リョーマに車道を歩かせないようにする。 また、おそらく無意識のうちにリ ョーマの歩幅にあわせる。 そんな不二の手馴れた行動に、 何だか女 の子扱いされているみたいだ。と、リョーマは思った。 まあ、悪い気は しないけど。 奇妙な沈黙が続いた。 時折通り過ぎる車のエ ンジン音以外二人をはさむ音は無かった。 ただ、黙々と歩く。 始めに沈黙を破ったのは不二のほうだった。 「さっきの事、ゆっくりで いいから考えててね。」 「・・はい」 「ああ、でも僕あんまり気が長い方ぢゃないから」 「どっちなんですか!!」 思わず声を上がるリョーマに不二が苦笑し た。 「ぢゃあ、僕の誕生日。知らないよね」 「・・・ッス」 「2月29日なんだけど今年は無いから28日までに出来れば、返事を頂戴。 僕は、真剣だからね。」 分かっているよ、それくらいと、リョー マは思う。 自分に告白してきた不二は、試合のとき、稀に見る本気の試 合のときの あの、眼だったから。 「でも、先輩オレ、こんなに一人 からチョコ貰ったの初めてだった」 「イヤ?」 「甘いの好きだからイイけど、勿体無くない?」 「 君にあげるものに勿体無いなんて思うわけない。それにね、 コレは僕の作 戦でもあるんだ。寧ろ、戦略といってもいいかな」 「?」 何の 事か分からないといった様子のリョーマに、不二は言葉を続ける 「チョ コレートは一種の媚薬なんだよ」 「ビヤク?」 「惚れ薬ってと こかな、正確に言うとチョコの中に含まれてるPEAっていう 成分が」 「ぢゃあ、チョコ食べたらその人のこと好きになるの!?」 大変ぢゃ ん、と慌てるリョーマ 「ううん、実際影響が出るほど含まれては、いな いんだって。 本当に微量だから。でも、ソレくらい食べてくれるんだったら 少しは僕の事好きになってくれるかと思って」 そういうと、ちゅッ 、と音を立てて、不二はリョーマの頬に軽く口付けした。 冷たい外気に 反して、彼の唇は温かで、そこから身体に熱が広がっていく気がする。 「これ以上は、送り狼になりそうだから止めておくね。ぢゃあ、また」 ふと、見ると其処はもうリョーマの家の前だった。 「あ。ありがとうご ざいます」 一体何に対しての礼だったのだろう。 送ってもらった事 になのか。 チョコをくれた事になのか。 それとも・・・ リョーマにも分か らなかった。 「さようなら」 そういって、不二はもときた道を戻っていく。 「・・・サヨナラ・・」 家にあがって、お茶くらい飲んでいってもらえば良 かったと、後悔した。 リョーマが家に入ると、愛猫のカルピン がその帰りを待ちわびたように 足元に擦り寄ってきた。 「よしよし」 大分重くなってきたそれ を抱き上げて、リョーマはリビングへと向かう。 冷蔵庫から、ファンタ を取り出し、テーブルに先ほどのチョコを広げた。 「うっわ、スゴイ量 」 不二から貰った分だけで、今日貰ったチョコレートの半分を占めてい る。 今更ながら、驚いた。 ひとつ、目に付いたものを開けて食べて みるとほんのりブランデーの味がする ビターチョコレートだった。 「ニガ・・・・」 慌てて、彼はファンタを飲み込む。 「まだま だだね・・・来年は、オレの好みくらい分かるかな?」 そういうリョー マの口元には笑顔。 上等じゃん。 その、甘い罠に 落ち てみてもイイかも知れない。 2002.02.14 |
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