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あこるでぃおん




今日の終わる音は、メロディーに乗せて。
誰も居なくなった音楽室の窓硝子に反射した夕日が目を焼く。
焼き付けるのは、彼の残像だ。

「穴場でしょ。防音は効いているし、
 内側から鍵を掛けてしまえば、完全な」

密室。

悪戯を思い付いた子どもの目に相応しくない
艶やかな笑みで、彼が耳朶にそう囁く。

「先輩と、俺の秘密だよ」

まだあどけなさが残る指先で戯れにピアノの音色を奏でる、
その傍らで音を重ねると黒曜石の眸が僕を映した。

「弾けるんだ」

「それなりに」

「期待を裏切らない人だね、先輩」

何か弾いてというリクエストに応えて、指を滑らせる。
弾ける、と言っても本格的に弾いたことなんて
もう何年もないから、僕の奏でる音は途切れ途切れの
継ぎ接ぎのような旋律で、だけど彼はそれを聴く。
ただ、何をするでもなく。
眸を閉じて。
零れ落ちる音は、赤い君へ向かう感情だ。
あの、夕日のように。
あの、果実のように。
そして、この心臓のように。
赤い、赤い、燃えるような命の音。
僕は、容易くこの感情に名前を付けることが出来る。
それは若しかしたら単なるエゴで、僕の思い込みで
勘違いだと君は笑うかもしれないけれど、それでも
確かに僕は。
消え入る音に、彼がたどたどしい音階を拾い集めて
ハミングする。未だ、声も変わらない子どもの、ボーイソプラノ。
貴重な楽器なんかが置いてあることもあるから、常ならば
騒いだりすることの決して許されない教室。
並べられた机の上に態とらしく腰かけてみたり、ピアノに
寄りかかってみたり、メトロノームを弄ってみたり、
一通りの悪さをしてからもう再び僕の傍でハミング。
今日を終える音色は、出来るだけ柔らかな和音。
何時か、僕の世界に終わりが来るとしてもこうして
彼は歌っているのだろうか。
そんな終わりを、僕は望んでいるのだ。
廊下の人の声も響かない。
彼の言葉通り完全な密室は、当たり前の日常を、
こうも容易に断絶してしまう。
僕はピアノを弾く指を止める。
君のハミングが続いて止まる。
音を遮断する教室に、響くのは余韻と僕等の声だけで
赤く染め変えられていく今日に僕はさようならを告げるのだ。
零れ落ちる音は、赤い君へ向かう感情だ。
あの、夕日のように。
あの、果実のように。
そして、この心臓のように。
赤い、赤い、燃えるような命の音。
僕は、容易くこの感情に名前を付けることが出来る。
それは若しかしたら単なるエゴで、僕の思い込みで
勘違いだと君は笑うかもしれないけれど、それでも
確かに僕は。
少しだけ泣きそうな顔をした君を歪んだ視界に捉える。
泣きそうなのは、僕なのかもしれない。
きっちりと留められた釦を、不器用な手先で、奏でるように
暴くように滑らせる。
肩に掛かる吐息に、少しだけ高い体温を抱いて冷ややかな
鍵盤に制す。
肩越しに全て室内を見渡した彼が、可笑しそうに微かに笑い

「ベートーベンに、シューベルト、バッハ。
 大勢の見物人の中、さながらショータイムだね」

と壁の肖像画を指差し、それから唇を重ねた。
それでも、確かに僕は。
この瞬間、君が全てで、君を愛していて










世界が終わったとしても、構わないとさえ思っていた。












先輩はピアノを弾けると萌える。
そのまんま曲名をタイトルに使ってみた。この曲好き。絶対不二リョだ〜とか
勘違いしつつ書いたわけですが。好きなんだけれど、聴くとすんごく
切なくて仕方がなくなる・・・。不二リョでシリアスで書きたいのって
学生時代特有の甘酸っぱさというか、青臭さというか、刹那的な感情です。
それが永遠になるかを計れるまでは、大人になりきれていない。






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