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最強ベイビー









何と無しに見えてしまった、携帯電話のメールに女の名前。
ハートの乱発する本文。
高そうな鞄の中からは、古典的なラブレターがどっさりと。
極めつけ、携帯に女の声で嫌がらせとしか思えない
「別れて」の声。


「―――――アッタマ、きた」


いい加減、うんざりだ。








初夏の雰囲気の漂う、穏やかな昼下がりだった。文武両道を掲げる
校内において学期毎に展開されるスポーツ大会が学年毎クラス別で
数チームに分かれて行われる。
もともとこういう行事には積極的に参加しないし、興味もそそられない
忍足は女子生徒の多大な声援を受けながらも、早々に負けて
適当にサボっていた。部活と、こういう行事の勝敗は全く別物だと
彼は思う。そして、此方は適当に負けたわけではないが何分チームに
恵まれなかったらしく惜しいところで敗退した部活の後輩、
鳳と出会い二人して日陰、体育館の脇に移動した。
こういうとき、金持ちの学校は便利だ。
豪華な建造物は暑い日差しを防ぐのに最適な陰を作るし、
校内は涼しい。
後、全校生徒が多いため少しくらいのサボタージュが
目立つなんてことは有り得ない。
自販機でスポーツドリンクを買うと、階段に腰掛けてぼんやりと
未だ戦っているチームを二人見遣った。

「忍足先輩は、こういうの苦手そうですよね」

「苦手っつうか、面倒くさいんや。テニスやと話は別やけど。
 その点、跡部なんか感心するで。アイツは何でも自分が一番上に
 立たんと気が済まん奴やからなぁ。頂点極めんと、嫌なんやと。
 ある意味、凄い執念というか。それで、尽く頂点掻っ攫うのは
 もう才能やな」

「部長のチーム、毎回どのスポーツに出ても優勝していますよね」

「殆ど、跡部のスタンドプレーやけど」

「・・・あの人に、チームプレイは望まないでしょう」

言って二人して、跡部が居ないのをいいことに噴出した。
そう、跡部のチームは強い。毎回毎回彼の出場する種目は
彼のチームが優勝する。最早ジンクスのようなもので、
おかげで何処のチームからも引っ張りダコだ。
・・・・・・・・・・・・・但し、跡部は決してチームプレイを
好まない。どんなにチームプレイの必要なスポーツだろうが、
一人で動き一人で得点し、一人で勝つ。これは、ある種の才能だ。
例に洩れず、やっぱり今回も順調に勝ち進んでいるようで、
トーナメント形式の対戦表を見ると跡部のチームは準々決勝までは
確実だ。
今回は、掛け持ちもしているものの主にドッジボールに
出ているらしい。

「―――――跡部と、ドッジ。・・・考えただけで、悪寒がするわ」

「手加減しませんからね、部長・・・・」

道理で、今日は負傷者が多いのか。
ドッジボールで跡部が出る試合には洩れなく追っかけの女子が
付いてくるので、何処に彼が居るのかなんて火を見るよりも
明らかだ。
黄色い歓声の上がるコートの端を見て、やれやれと思う。

「相変わらず、もてますね」

「あんな俺様のくせに、顔はむっちゃええもんなあ。
 あれじゃ、付き合う人間は気が気じゃないやろ」

「ああ、越前君」

つい一ヶ月ほど前、跡部が高らかにリョーマとの交際宣言をした
ことを思い出した。
これにはチームメイトの誰もが驚いたが、跡部の面食いとか、
あと彼の好み「気が強い子」を考えるとやたらに納得が
出来たのもまた事実だ。
リョーマは、当然ながら同性だ。
同性で、しかも他校生だが。確かに、頗る可愛い。
あの十人をして、十人に美形だと言わせる跡部の横に並んでも
少しも引けを取らないどころか釣り合うなんてそんじょそこらの
人間には出来ない事柄だ。
しかし、他校生である以上また跡部のパフォーマンスが
必要以上に派手である以上、跡部を狙う不穏分子は
数多く未だ存在する。リョーマにしても、そうかも知れないが
兎角このカップルの恋は前途多難だと誰もが思う。
・・多分に二人の性格が災いしている部分も否定できない。

「大変そうですよね、僕が目撃しただけで先週だけでも部長が
 女生徒に告白されている場面なんて
 一度や二度じゃないですよ」

「流石に他校生の越前の存在は知られてへんもんな。
 跡部も珍しく律儀に断りよるみたいやけど」

それで諦めてくれたら良いけどなあ、と言うと鳳も同じことを
思っていたらしく苦笑した。
それから特に何をするでもなく、試合を見ていたのだが一体
如何したものか彼らのサボっている体育館の階段の下が妙に
騒がしい。
何やねん、と気分を害したように忍足が言う。
それに応えて、鳳が階段の下を見やった。

「何か、一年生かなぁ・・・?」

「どしたんや」

「うーん、ハッキリ見えないですけれど。絡まれてるみたいです」

「相手は?ついでに、その子女の子?」

「相手は、あんまり評判は宜しくない僕と同学年の男子で
 多分女子生徒じゃないですかね?
 よく女の子にチョッカイかけてるし」

なら、決まり!とばかりに立ち上がると忍足は持っていた
スポーツドリンクを蓋を開けて騒ぎの中心に落下させた。
(勿論、女子生徒に掛けるようなヘマはしない)
跡部と長年友人なんかやっていると、妙な度胸がつくなー
なんて他人事みたいに考えていると当然下では悲鳴がした後、
罵声が飛ぶ。

「何や?おったんかい」

「―――――忍足先輩・・・・」

チッと彼らの一人が呟いたのを見逃さない。
俺って結構有名人?と背後の後輩を振り返ると呆れ顔で有名に
ならない方が可笑しいですよと彼は溜息を吐いた。
割と大人しくしている方だと思っているが、
まあ跡部に巻き込まれたり跡部に巻き込まれたり
跡部に巻き込まれたりで一寸ばかり喧嘩もするし、
一寸ばかり腕には自信がある。
ひらひら、と愛想良く手を振ってやったというのに
苦虫潰したような顔をして今先程まで騒いでいた輩は
居なくなってしまった。
そんなに、危ない噂でも流れているのか
若干不安になるほどの効果だ。

「・・・・っと、大丈夫ですか?」

小さな人影に気付いて、鳳も階段を駆け下りていく。
その背丈から一年生、或いは二年生の女子生徒だと
思っていたのだが

「あー・・・縁あるね。ども」

飄々とした態度で小さく会釈をした人物は先程まで
会話に上っていた跡部の恋人だった。












「スポーツ大会があるのは、景吾から聞いて知ってたからさ。
 紛れ込めると思って、一応ジャージで来たんだけれど。
 やっぱり目立つね」

・・・・目立つのは、ジャージよりも寧ろ本人だ。
ちゃっかりファンタを奢ってもらい、大満足といわんばかりの
表情でリョーマはこんな状況に至った理由を問われて話し始めた。

「―――――で、跡部に会いに来たっちゅうわけやな」

「そう。いい加減ムカついてさ。
 大体俺には凄く口煩く部活の先輩でさえも近づくなとか
 言ってくるくせに、あの人凄くモテるじゃん。
 そんなの、卑怯」

ぷう、と口元を尖らせて拗ねる彼は年相応に子どもっぽく
無邪気で可愛い。
横で鳳が凄い可愛い凄い可愛い小声で連呼しているのを
落ち着けと言いながらも、内心忍足も同じ心境だった。
信じられないが、リョーマはとどのつまり嫉妬しているのだ。
傍目から見れば、跡部がリョーマを溺愛(間違った言い方ではない)
しているのは明らかであるのに、それでも余程心配なのか。
休日を返上してまで(スポーツ大会は休日に行われ、
翌日は振り替え休日になるのだ)他校に来る彼の行動は、
可愛いとしか言いようが無い。

「で、景吾は何処に居るか分かるっすか?」

「直ぐ分かりますよ。一番歓声が上がっていて、ついでに一番
 ギャラリーが多いところです」

「あ、でももう直ぐ休憩時間やから。
 一緒に飯でも食べていけば?俺らも跡部のところ、行くし」

「そうなの?」

二人の返事を待たずして、その時試合の終了を告げるホイッスルが
鳴った。
基本的に大会は全て生徒会の自治の元行われているため、
放送も全て生徒が行う。
生徒会の役員も兼ねている跡部は一見忙しそうだが、巧妙な手口で
何時もそれを逃れているため基本的に一生徒と何ら変わりない
休憩時間を持つことが出来るのだ。
終了の合図にわっと歓声が湧いて、それから黄色い悲鳴が飛び交う。
「跡部様」という一連の甲高い女性特有のコールを耳にしたとき
それまで珍しく殊勝な態度を取っていたリョーマの顔色が変わった。

「・・・・・・・・・・・ふうん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
地雷だ。
地雷を踏んだな、と傍に居る二人は冷え行く空気に直感した。
リョーマは元々それほど表情に富む子どもではないが、
それでも分かるほどに彼の不機嫌度はマックスだ。

「あ・・・・・あの、越前君」

「何」

「先輩が、ほら。ああいう風なのは、良くあることなんで、
 そんなに気にすることじゃ・・・・・・・・・・・・・」

「―――――日常茶飯事ってこと?」

(阿呆――――――――――!!)

何自ら再び怒らせるようなことを言うてるんや!!
忍足は内心叫んだ。思いっきり叫んだ。藪蛇じゃないか。
リョーマの眉間に思いっきり皴が寄るのが分かる。
まるで、彼の学校の部長みたいだ。
そんな顔したら、折角の別嬪さんが台無しやで?と優しく
声掛けるだけの勇気は彼にはなかった。
ついでに時間もなかった。
リョーマがいきなり全力で走り出したからだ。

「ええええええええええ・・・・越前―――――っ!!」

「リョーマ君ああああああああ!!」

慌てて引き止めるが、無論そんなことで王子様の足を止められる
筈などない。
無いのが分かっていても、取り合えず叫ばずに居られない。
リョーマの足の向くところなんて、分かりきっている。
跡部の居る、ついでにギャラリーもわんさかいる、
たった今試合の終わったグラウンドだった。

「けーごっ!!」

やや舌足らずな、声。(それでも常より随分トーンが重い)
肩で息を整えて、睨むと流石にリョーマが此処に居るとは
思わなかった跡部は瞬間反応が遅れたがその姿を認めると
直ぐに、信じられない!と言った顔をした。

「お前、何で・・・・・」

「居ちゃ悪い?」

「俺に、会いに来たのかよ・・・・!?」

「当たり前じゃん」

周りそっちのけの二人の会話に、ザワザワと周囲が騒ぎ出す。
この辺りから、あの跡部様発言は飛び出したのか。
如何にもなネーミングは頭が痛いと思うけれど、
それを馬鹿にするより何より先に走った感情が嫉妬だった。

「大体、アンタが・・・・!俺には、とやかく言うくせに
 女子に跡部様なんて呼ばれていい気になったりメールだって
 しょっちゅうもらったり、もう、何で俺だけアンタに
 振り回されなきゃ駄目なんだよ・・・っ!馬鹿!馬鹿景吾!!」

「なっ・・・・・・・・・俺様の何処が馬鹿なんだよっ!」

「五月蝿い!!言っとくけど!言っとくけどね!!」

ぐい、と跡部の体操着の襟を精一杯背伸びした体勢で
リョーマが引く。一瞬緊張が走って、喧嘩にでもなるのかと
覚悟したギャラリーを漸く追いついた忍足と鳳が押しのける。

「越前、早まったらアカン!」

「リョーマ君!!」

間近に迫った跡部の顔に、リョーマは視線一つ逸らすことなく。







その唇に、接吻けをした。











「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」


最初に間抜けな声をあげたのは、他でもない跡部だった。
それから、まるでそれがファーストキスでもあるかのように
真っ赤になっているリョーマに目を開いて、
今の状況を確認すること時間にして数秒。
何とか頭の回転が追いついた。

「り・・・リョーマ?」

「アンタは、俺のものなの」

「・・・・・・・・オマエ、若しかして嫉妬・・・・」

「五月蝿いっ」

ぷいっと顔を逸らすがその耳まで真っ赤になっていては、
言い逃れが上手くいく状況じゃない。
暫し呆然とさせられた跡部だったが、此方も顔を少し、
ほんの少し赤く染める。
可愛い、と彼の唇が模ったのを見たのは果たして何人
居るだろうか。

「オマエ、可愛すぎ・・・・・・・・・・・」

「かっ、可愛いいうなっ」

「可愛いものは、可愛いんだよ畜生。如何してくれんだ」

「何が」

「・・・・我慢出来ねぇ」

「―――――っ!」

今度は、跡部の方からキス。
それもリョーマが重ねたような軽いものではなくて、恋人同士が
重ねるような所謂ディープキスだ。
じたばたともがくリョーマを抱きすくめて、跡部は至極満足そうに
そして何ともないことのようにスポーツバッグを持ち出すと、
飯にしようぜと鳳と忍足に声を掛けた。

「・・・・・・・・あ、ああ」

「・・・・ですね」

漸く呪縛から解けたように、声を出すことが適った二人同様
フリーズしたままの周囲も漸く状況を呑み込めたらしい。
それを見届けて、頬を薔薇色に染めながらも高らかにリョーマは
宣言した。

「景吾は、俺のもの」

だ、と。















それから、どうにも満足したらしいリョーマと珍しくリョーマから
積極的に接吻けなんてされたおかげで一頻り感動している跡部を
伴って痛いくらいの(本当に痛いくらいの)視線の中を歩いて
昼食を取るためのベンチに向かうまでの距離を多分一生涯
忘れることはないだろうと忍足も鳳も思う。
ざわざわ、と細波のごと広まっていくざわめきはやがて女子の
悲鳴だとか後男子の羨望の声だとかに取って代わった。

「何、何あの子!!跡部様の恋人?!」

「凄い、可愛い・・・・!流石、跡部様。レベル高いわ!」

「うっわー、跡部羨ましい。超レベル高いじゃんあの子」

「―――――てかよ、越前って
 ・・・・何処かで聞いた名前・・・」

「・・・・・・・・・青学の、一年にそんな奴居なかったか?」

「あ・・・・」

その後、もう再び黄色い悲鳴。
リョーマは、跡部が恋愛感情込みでもてているものだと
思い込んでいるが、全部が全部そうとは限らない。
大抵の女子は、ああいう見た目が「見た目が綺麗な男」を好むが
付き合いたいかと言われたら恐らく話は別だろう。
自分が跡部の横に並べる自信がある女子なんて、そう居ない。
詰まるところ、正しく彼女たちは「跡部様のファン」なわけだ。
勿論、跡部はそのことを知っているがリョーマは知らない。
跡部に遣されたラブレターなんて大概ファンレターだったり
(どこぞの芸能人かと突っ込みたくなる)中には本気の手紙も
あるが、此方は丁重にお断りしている。
リョーマと出会ってから、彼以外に大切にしたいものなんて
跡部が持ち合わせていないことは彼と親しい人間からしてみれば
一目瞭然、大前提の事実だ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・要は、バカップルやんな」

最早死語となりかけている単語を口にして、重く溜息を吐く
先輩にだが鳳は深く同意した。
結局このカップルには今後も巻き込まれていくんだろうなーなんて
一寸だけ悲観的な思いも込めて。

「何食べるか?パンが良いか?俺の弁当でも食うか?」

「景吾のが、イイ」

「絶対オマエのために優勝するから、俺の華麗なプレーを
 見ていけよ」

「俺のため?」

「当然だ」

砂どころか砂糖を吐きそうな会話を、恥ずかしげも無く繰り返す
跡部とリョーマを見て恋ってこれ程人を盲目にするものなのかと
鳳は思う。そして、それだけ周りが見えなくなる相手を見つけられた
彼らをほんの少しだけ羨ましく思いながら、何処までも澄み渡る
青空を仰いで眩しさに目を細めた。



















甘甘、ラブラブです。
ラブラブです(二度も言うな)・・・・置いていかれた感が残ったら
申し訳ない。リョマさんが嫉妬するお話と彼の行動力を書きたかった
ので、まあ満足です。毎度忍足さんと鳳さんに巻き込まれて
もらいました(笑)動かしやすいんだよ、この人達。
跡部様はモテるが、絶対遠くで見ていたい人だと思います。



















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