「あのヒト、どうにかしてください」 態々、昼休み携帯で呼び出されてまで告げられた一言に 菊丸は軽く眩暈を覚えた。 事の発端は、いつもの昼休みだった。 昼食のパンを食堂で買い教室に戻った後 「不二―!一緒に食おう★」 とこれまたいつものようにチームメイトで悪友の不二に 声を掛け、菊丸は所定の位置に着いた。 不二にしてもそれは慣れたことらしく一つ肯いて席に座る。 「菊丸君、不二君、コレ食べてー!超美味しいんだって」 「うわ、マジ?サンキュー!」 同じクラス、あるいは別のクラスの女子からおかずやら 菓子類やらジュースやら差し入れが入るのもいつもの事だ。 最も、それが友情からくるものなら受け取りはするが 後輩と付き合うようになってから不二は好意から寄せられる 類のものは尽く断りを入れている。 勿体無いなー、と茶化せば 「なら、英二貰えば?」 と言われてしまい、菊丸は慌てて首を振った。 彼にしても好意から貰うものは少しだけ荷が重いらしい。 そんないつもの光景の中 〜〜〜♪♪。。♪。。。。刀♪〜〜〜 「うわ、ヤベッ」 菊丸の携帯の着信が突然鳴り響いた。 「バイブにしときなよ」 不二が呆れた面持ちで溜息をつく。 「忘れてたの!メール、こんな時間に誰だよ・・・っと」 パチンと音を鳴らして、折り畳み式の携帯を広げた瞬間 菊丸は目を大きく開く。 そんな彼の様子に不二も些か疑問の抱いたらしく 「誰から?」 と訊ねてきた。 「や、他校の女のコから〜」 ホラ、俺ってモテるからねンと返すと程ほどにねと 納得したように不二は言った。 『一寸、相談が。昼休み、部室の近くで待ってます』 簡潔な内容のメール。 しかも、此方の意向をまるで聞く素振のない 自分の用件だけのメール。 彼の性格が断片的ながら非常によく表れていると 菊丸はある意味感心した。 発信源は、越前リョーマ。 菊丸の携帯のメモリーにはおチビちゃんと表示されている。 先程触れた不二の付き合いだした後輩だ。 それにも関わらず、彼が不二にそのメールの内容を 明かさなかったのは彼の勘がそれを命じたからだ。 こういうとき、それに従った方が良いというのは 長年の経験から知っている。 そして、その彼の勘が厄介ゴトの始まりを告げていた。 菊丸は大きく溜息を吐きながら机に臥すと 「空が青いね」なんて意味もなく呟いてみた。 そして、冒頭に戻る。 菊丸の前には、メールを送りつけてきた張本人が何の 悪びれも無い顔をしつつ、態々スイマセンと棒読みで述べてみせた。 ―――せめて、もう一寸感情を込めて言おうよ。 思ったが、今更だと苦笑して口には出さなかった。 「あのヒトって」 呼び出された時点で最早何に関する相談なのか薄薄感づきつつも 念の為菊丸はリョーマにそう訊ねてみた。 「あの悪魔、いや魔王、大魔王のコトっす」 「・・・だよね」 予感は的中するがこの場合あまり有難くない。 むしろ、外れてくれた方が良かった。 リョーマのあまりに端的であまりに比喩の多い人物描写は しかし逆に菊丸に確信をもたらす。 世の中広いとは言えど、悪魔だの大魔王だの表現される人間が わんさか存在しているはずも無い。 少なくとも、彼らはそう表現される人物に 一人しか心当たりが無かった。 菊丸は嗚呼、やっぱり不二に言わずに出てきてよかったと思ったのだった。 外見は、いっそ果敢無げで柔らかい物腰。 色素の薄い肌や髪の毛、整った造型。 見事なまでに内面をカヴァーできる外観を持ったその人。 「不二のコトだね」 当たり、と言わんばかりにリョーマは重々しく首を縦に振った。 「・・・で、相談って?」 心なしか溜息を交じらせて菊丸は上半身を屈めて地面を見つめる。 リョーマは背凭れにしていた部室の壁を脚で幾度か軽く蹴ると そろりと話を持ち出した。 「先輩、不二先輩と付き合い長いんでしょ? 仲が良いんでしょ?なら、あの人の性格の悪さを 如何にかしてください」 「無理」 「・・・即答かよ」 「俺にも出来ることと出来ないことがあるんだよっ!」 付き合い長い分だけ其の事を良く理解して居るんだと菊丸が 半ば叫ぶように言えば、今度はリョーマが溜息を吐いた。 「大体おチビなんかまだマシだって。 めちゃめちゃ贔屓されているし、可愛がられているぢゃん。 アイツおチビに近づく奴とかにはスッゲ―怖いんだぜ? おチビ、不二から嫌がらせやら脅しやら(酷)受けてないだろ」 「受けてますよ」 「まったまた、そんな冗談を!可愛い恋人にそんな・・・」 「ベッドの上で」 その言葉に今度こそ菊丸は地に沈んだ。 「聞いてます?ちょっと、菊丸先輩?」 「聞いてるよ・・・・」 「ならば、如何にかしてくださいよ」 「それこそ俺には如何にも出来ません」 「ヒトが厭だっていうことをシツコクしてくるし、 明日部活があるから痕残すなっていうのに執拗に キスしてくるし、夜更かし平気でするし、ちょっと聞いてますか」 「聞いてるって・・・」 そっか、最近奴がやけに機嫌が良いのはそういうことかなんて ボンヤリ考えつつも菊丸は相槌を打つ。 先程よりか頭痛が酷くなったのは絶対に、絶対に気のせいでない。 そりゃあ、仮にも恋人同士という間柄で。 しかもあの不二が相手で。 何にも無いとは思っていなかったが、本人の口から聞くと流石に 色んな意味でショックである。 愚痴なのか、それとも自覚していない惚気なのかあるいは両方か。 何れにせよ、真剣に悩んでいる様子のリョーマをそのままに して置くわけにも行かず、 また彼がレギュラーの一員である以上 先程述べられたように夜更かししての遅刻や体調不良等 部活動に差し障りのあるほどの付き合いも困るので (かと言って不二に直接抗議するのは至難の業だ) 菊丸は困惑した。 「何で、大石や手塚に相談しないのさ」 「あのヒト達が、不二先輩に立ち向かえるほど精神面で強い とは思っていませんから」 菊丸先輩なら、ホラ免疫あるでしょ?と見惚れるほど愛らしい 笑顔を向けてリョーマは言う。 「俺だって、ヤツに立ち向かえるほど強くは無いよ」 「知っています」 「オイ・・・」 「でも、ホラ。せめてアドヴァイスくらいは友達だから貰えるかなって」 信頼して貰えるのは嬉しいけれど正直こんなコトで頼られてもな と思った。 「アドヴァイス、ねえ」 くるりと外ハネの掛かったやや赤毛に近い髪の毛をガシガシと かくと思いっきり空を仰ぐ。 目に痛い位の晴天だったので彼は少し泣きたくなった。 ―――何やってんだろ、俺・・・。 全くの、正論である。 暫くして不意に菊丸はある考えに辿り着きポンと手を打った。 何か良いアドヴァイスでも見つかったのかとリョーマは目を開き 彼の方を見る。 にや、と不敵に笑う姿がそれを肯定していた。 「泣きおとせ、おチビ!!」 「・・・は?」 得意顔で言う菊丸に怪訝な目を向ける。 それに気付いたらしい彼が、信じろよと続けた。 「男って女の子の泣き顔に弱いっていうぢゃん!」 「俺、女の子でないんスけど」 「細かいことは気にするなって!イイか?おチビとか 絶対普段泣いたりしないだろ?」 「しませんよ」 「そんなコが急に泣いたりすると、こう・・・ 何でもして泣き止ませてあげたくなるんだよ!絶対! 幾ら不二でもチビちゃんが泣けば意地悪しないって! むしろ凄く優しくなるんぢゃない?」 「そういうモンっすか」 「そういうモンなの」 「はぁ・・・」 イマイチ説得力に欠けるなと思いつつも、リョーマはそう言えば 自分が滅多なことで泣かないことと未だ不二の前で泣いたことは (少なくとも彼の意識がある限りは)無いということに思い当たり 成る程試してみる価値はあるのかもと思い立った。 問題は、如何にして泣き出すかということだ。 「ジャーン!これ、貸してやるよ」 言って菊丸が取り出したのはお約束ながら目薬だ。 どうやら彼は常に持ち歩いているらしい。 テニスに置いて菊丸の利点がその視力にあったことも リョーマは思い出してそれでか、と思う。 こんな非常にベタな手に不二が引っ掛かるかというのは 甚だ疑問であるが取りあえず目薬を受け取り、礼を言うと リョーマはその場から立ち去った。 あとに残った菊丸はといえば。 「GOOD LUCK」 リョーマの幸運と自分の身の安全を願ったという。 「あれ、越前。如何したのこんなところで」 ギクっ。 聞きなれた声にリョーマの小さな背中が揺れる。 誰かなんて、直ぐに判る彼はその声の持ち主に背を向けたまま 「・・・・不二センパイ・・・」 小さく、呟く。 クスクスと彼の笑い声が響く廊下は生憎人の気配がしない。 教室のある校舎でなく、音楽室や美術室と言った専門の教室の 並ぶ校舎側から中に入ったことを後悔する。 相手もそれを悟ったらしくしなやかな腕でするり、と簡単に 捕まえられてしまった。耳元に、声が響く。 「二人の時は、名前で呼んでよ。・・・リョーマ?」 掛かる息に、全身が総毛立つ。 ・・・・・拙い、ヤる気だ。 確信するのに時間が掛からなかったのは薄い夏服を割って素肌に 掌が進入してきたからだ。 「が、学校ぢゃヤだ!!」 リョーマは慌ててそれを阻む。 「どうして?」 小首を傾げて30度(不二スマイル)。 「そんな可愛いカオ作っても通じません!」 「如何して?もう一週間近く君に触れていないんだよ」 「たった一週間です!次の授業もあるし・・・」 「一時間くらいいいぢゃない」 「駄目っす!ヤダヤダヤダヤダ―――――っつ」 「厭って言われると、逆にしたくなっちゃうよね」 「ぢゃあ、イイ!」 「イイなら、お互いの合意の上でということで」 「どっちでもするんぢゃ無いかぁ――!!」 必死にジタバタと悪あがきをするリョーマは不図先程 菊丸から渡された目薬の存在を思い出した。 幸いなことにコンパクトなそれはリョーマの手でも 覆うことが出来て、今現在不二に背を向けている彼は 是幸いとばかりに目を覆う振りをしてそれを点した。 「リョーマ?」 抵抗を止めた彼を不思議に思ったのか手の戒めを解き 不二は少し屈んでリョーマを覗き込む。 今だ。 「・・・・っく、ヤ、やだって言ってるのにっ・・・・」 言ってリョーマはポロポロと泣いた(勿論嘘泣き) ピタリ。 そんな擬音が聞こえそうな程俄かに、はっきりと不二の動きが止まる。 (ヤッタ!先輩驚いてるぢゃん) リョーマは動かない不二を見て勝利を確信した。 と、同時に彼の中での菊丸の株は鰻昇りであった。 御世辞にも上手い演技とは呼べないであろうそれは しかし不二が驚きの表情を浮かべてフリーズしたことに よって成功を収めた かのように見えた。 「・・・可愛い・・・」 「・・・・・・・ハイ?」 うっとりと、恍惚とした表情で呟かれたその一言に リョーマは情けない声を出してしまう。 可愛い?可愛いって??? 予想外の不二の行動にショート寸前なリョーマをぎゅっと 彼は抱き締めてもう再び、何て可愛いんだと言った。 「リョーマって、泣き顔も可愛いんだね」 「・・・・・??」 今だ彼の言っている言葉の意味を上手く飲み込めずに 驚きのあまり嘘泣きも忘れて、只呆然としているリョーマに 不二は綺麗に微笑んだ。 「うん、凄く良い。何ていうか・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・もっと泣かせたくなるよね」 その言葉に流石に気付いたリョーマは慌てて場を離れようとしたが 勿論不二が見逃すわけも無かった。 退路を断たれて呆気なく捕まり そのままよいしょ、とお姫様抱っこ。 後は、ご想像にお任せすることにしよう。 「菊丸先輩の、バカヤローっ!!」 その後、折角鰻昇りだったリョーマの中での菊丸の株は急降下のち 元の位置に戻り菊丸は、散々リョーマから文句を言われる羽目となる。 代わりに、不二からは 「良いモノ見せて貰ったよvv」 と有り難くも無い感謝の言葉を貰うこととなったのだった。 えーっと、長いですね。不二リョです。笑えなくてもギャグです。 の割に不二先輩の出番は少ないし、菊丸先輩が目立ち過ぎな気も。 可哀想なのは、王子でなくて菊丸サンかも知れません。 多分、絶対。因みにあたしは黒菊推奨なんですがね。どうでもいいですか、そうですか。 不二先輩に泣き落としは通用しません。魔王だから。 スキなコ程虐めたいってヤツです。頑張れ、王子!(無責任) |
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