今年も学園祭の季節がやってきた。 青春学園でも、毎年一般からも来客を招いた大規模な学園祭が 催されて、それは文字通り「祭り」である。 今年は例年通り、様々な部活動ごとに催し物が行われる運びと なった。文化部は凡そ展示・発表を行い、文化活動と縁の無い 運動部は多く飲食店を開く。 果てさて今年、青春学園男子テニス部のメンバーは一体何を 行うかと言えば 「・・・・・・・・・・俺、今凄く死にたい気分っス・・・」 「駄目だよ、越前。そんな死ぬなんて言葉簡単に使っちゃ」 メ!!と幼子を諭すように言う不二を見てリョーマはやっぱり 溜息を一つ。 「そうそう。おチビ!!こーいうのはねっ、堂々としてる方が 恥ずかしくないんだぞ」 堂々と振舞いすぎな菊丸は、周りから送られる歓声にも冷やかしにも あは☆と笑って手を振り返す。・・・・・・・・・タフだ。 3人の恰好は今現在メイドさんだったりする。 「俺は嫌だって言ったじゃん!!そんなやりたいんだったら 先輩たちだけでやってくださいよ!!」 「仕方ないでしょ。だって、僕たち以外にチームで似合う 人間なんて居る?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 それを言われると、反論の仕様がない。 手塚とか大石のメイド服姿を想像出来ないリョーマは流石に 言葉に詰まった。不二は元より中性的な外観だから、演劇部から 借りてきたウィッグも付けてやたらに似合っているし、彼に 比べると男っぽい感じのする菊丸だって、まあ、残りの メンバーに比べたらきっと格段に似合っている。 何より顔が広いので、集客力は抜群だ。 「俺、俺は別にこんな恰好しなくたって・・・・」 ブツブツと文句を言うリョーマを振り返り、見事に二人の 声が揃った。 『何言ってるの。越前(おチビ)が最高の客寄せだって』 黒髪のウィッグをくるくると巻き髪にされて、 メイクの上手な女子(ギャル風味)まで呼んで来られて、 今や美少女―それも滅多にお目に掛かれるレベルでない―に 変身したリョーマが悔しそうに睨んだところで、やっぱり 可愛いだけだった。 今年は男女テニス部合同で喫茶店を出そう!という案が 挙がったときに流行?に則ってメイド喫茶にしては?と 誰かが言い出したのが切っ掛けだ。勿論教室を貸し切っての 店内に居るメイドに扮するのは女子たちであるが、呼び込みを 女子にさせるのは危険ではないかとストップが掛かった。 『外部からの客も当然多いからな。物騒だ』 フェミニストな手塚の意見に反対する者は無く、ならば 男子がメイドに扮して呼び込みをすれば、受けも狙えるし 女子も来るしで一石二鳥なのではないかということになった。 衣装の大きさの都合とそれから、見た目の都合で見事抜擢された のが不二・菊丸・それからリョーマだ。 「けどさ、失敗だよな。 おチビちゃんだと、女子より危険だっつの」 「手塚と大石はそういう危機管理は甘いよね。自分の常識外の ことを想像するというか・・・」 「乾は楽しんでいるしな」 「僕が居る限り、まあ、越前は護るけれど」 何処から如何見ても美少女にしか見えない悪友が、傍らで紡いだ 一言に菊丸は息を吐いた。 その点は心配していないのだ。別に。 不二がこんな外見だけれど、実際結構洒落にならない程度に強い ことは、最初のうちは喧嘩をしたことがある彼は身を以て 知っている。だから、心配しているのは寧ろ不二に対してだ。 「暴走するなよ・・・・・」 ぼそっと呟かれた一言を拾って、彼は見事に笑ってみせた。 この宣伝の集客力は抜群だった。 何せ校内で人気のある3人の存在を知らないものなんて殆ど 居ないから、あらゆるところから声が掛かる。 その出で立ち(特にリョーマ)を見て、驚いたりしていたが 一様に高評価で、中には写真を取らせてくれだの、付き合って くれだの無茶な要求も男女共に上がって(主にリョーマ) その都度菊丸が爆笑し、リョーマが引き攣り、そして不二が 笑顔で慇懃無礼にお断りするという場面が今日はあらゆる所で 見掛けられた。 「は〜、面白れ〜!!チビが女装だって絶対見破れないよな。 不二もだけれど。全然普通の女よか可愛いって」 「・・・先輩、それ誉めていない・・・」 「可愛いは誉め言葉だよ、越前」 「おう、菊丸!!」 不図、ある一点から声が掛かった。 私服である声を掛けた男子は、校内では見たことのない顔だ。 他校生、或いは高校生だろうか。 菊丸は、よ!と笑うと其方に駆けて行き、それから何事か 談笑している。 「悪ぃ!一寸俺話してから行くから!昼飯でも食ってこいよ。 どうせ、もう集客終わりだろ」 「っス」 「分かったよ」 二人が了承すると、不二、と彼は不二を手招いてそれから小さく 耳打ちした。 「上手くやれよ」 「菊丸先輩って顔広いんスね」 「あぁ、英二はね。お兄さんの友達とかも交流があるみたい だから。越前、昼何を食べたい?」 「先輩は?」 「・・・・・・僕は、越前が食べたいもので良いよ」 「じゃあ、お好み焼き」 「OK、行こうか」 手を差し出すと、一寸だけ躊躇してそれから小さな手が 重ねられた。 『僕と、付き合って』 その言葉に答を貰ったのは、もう1ヶ月ほど前のことだ。 『俺も、先輩、好き』 たどたどしく紡がれる言葉。拙い仕草に、嗚呼、焦らず 少しずつ『恋人』になっていこう。この子と歩いていこう。 なんて思ったりしたのが、一ヶ月前。 未だ手を繋ぐことすら、この按配で、勿論表情に出すことなく 不二は少し凹んだ。 ・ ・・・・・・・・・・もう少しくらい、慣れてくれても。 リョーマが恋愛に対して晩生なのはある程度覚悟していたが、 まさか此処までとは思ってもいなかった。 照れたように、視線を逸らす仕草も可愛い。 とことん可愛いけれど。 (・・・・・・・卒業までに、僕等ってキス出来るのかな) 不二だって、男の子だ。 恋人となった以上は、色々期待しているし、正直手を繋ぐ くらいで満足するはずが無い。 人知れず、溜息を一つ。 そんなこと露知らずの恋人は、様々な露店に目移りしつつ キョロキョロと辺りを見渡す。 人混みの中、手を繋いでいて正解だったなと不二は内心思う。 迷子になりかなない。 「越前、危ないからあんまりうろついては駄目だよ」 「大丈夫!先輩、後でクレープも買おう」 俺、チョコバナナが良い。 キラキラとした眸でそうおねだりされたら、抗える筈も無い。 後でね、と苦笑すると。 「俺が買ってあげようか?」 突然背後から声が掛かった。 聞き覚えの無い声に不二とリョーマがほぼ同時に振り返ると 其処には二人組みの恐らく高校生くらいと思しき男子が居る。 不二より少し上背があり、二人を見下ろすと男たちは互いに 顔を見合わせて良いじゃん、と口笛を吹いた。 着崩した上着や、染められた髪の毛。如何にも今時の若者な 彼等は、成る程人好きのする笑みを浮かべる。 ―――――但し、不二には軽薄そうにしか映らないが――――― 「何ですか?」 怪訝そうに訊ねるのも意にも止めない様子で、もう一度 「クレープ。奢ってあげるよ?」 と彼等のうち一人が言う。 「その代わりさ、案内してくれない?君たち此処の 生徒でしょ?」 「さっきから、可愛いなって思ってたんだ」 「結構です。間に合っていますから」 ぴしゃり、と言い放つと行こう、とリョーマに言って 不二は歩き始めた。 偶に。 居るんだああいう輩が。昔に比べたら流石に現在では 女子に間違われることは減ったけれど、こんな恰好をしては 未だ間違われるらしい。 平生は気に掛けていないものの、少しばかり自分の女顔が コンプレックスになる。 苛苛しつつ、足を進めると尚も後ろから彼等は追ってきた。 「良いじゃん、一寸くらい」 腕を掴まれて、苛立ちがピークになる。 「しつこ・・・・!」 それを振り払おうとすると、不二がそうするよりも一瞬早く その手が叩き落される。 驚いて見ると、リョーマが彼等と不二の間に立ち塞がった。 「先輩に、触るな」 「・・・・・・・・え、ちぜん」 呆然とした。 だって、リョーマがそんな行動に出るなんて思っても みなかったから。 呆然として、それから途端に嬉しさが込み上げてきた。 だって、それって。 それって。 (・・・・・・・如何しよう。今、凄く幸せだ僕・・・) 先程までの不快感は何処へやら、リョーマが愛おしくて 堪らない。ちゃんと、好きでいてくれた。 それが、嬉しかった。 「聞こえなかった?先輩に触るなっ」 仔猫が毛を逆立てたような威嚇に、だが男たちは笑って 少しも堪えていないようだった。 「先輩?そっかぁ、君の先輩なんだ」 「じゃあ、君が俺等と遊ぼうぜ?な?」 「わ・・・っ」 グイ、と手を引かれてバランスを崩しそうになったリョーマは 焦る。 「何すんだっ、クソ!」 「何もしてねーじゃん。遊ぼうって言ってるだけで」 「そうそう」 「何してるの」 低く。 低く、紡がれた一声に。 ピタッと、辺りは静まり返る。 「ねえ、僕の越前に、何しているの?」 ぱき、ぱきと態とらしく指をならして、試合中のときの ような表情を不二が垣間見せる。 常は笑顔と纏う空気で誤魔化されているが、元来切れ長の 眸も、整いすぎたかんばせも、冷たい印象を人に与えるのが 常だ。美人が怒ると、怖い。 それを素で実践して見せるのが、彼だ。 「汚い手を、除けてくれない?」 言うが早いか、否か。 有り得ない速さで、不二は拳を出した。 「・・・・・・・てか、何でアンタが強いの」 「昔は虐められっこでね。ほら、この見た目でしょ。 それが悔しいから、色々武術を学んで、あとは英二と 知り合ってからアイツ顔広いからね、喧嘩もちょくちょく 売られて実践することも増えたし」 「で、俺は何をされているの」 「消毒。僕ですら、未だ手を握ったことしかないのに」 校舎の陰で、適当に座れるところを確保すると買出しした 食材を置いたまま、不二はそっとリョーマの手に接吻ける。 着替えに行っていないから、未だメイドさんな恰好の彼等は 傍から見ると大変危うい空気であるが、幸い此処にそれを 咎めるものは居ない。 メイドさんな恰好の不二が繰り広げた乱闘騒ぎは、逆に 宣伝になってしまったようで、応援の野次が飛び交った。 何処から如何見ても、戦うメイドさん。 美少女にしか見えない筈なのに、何故か凄く恰好良く、 男らしく見えたのは恋の為せる技かも知れない。 掌に触れる唇のくすぐったさに、少しだけ身を引くと、 その視線とぶつかる。 「僕に、こういうことされるのって嫌?」 「・・・・・・・やじゃない、っスよ。さっきの人たちが、 手を握ったとき俺、凄くやだったけど。 先輩は、嫌じゃない。先輩が、他の人に触れられるの、やだ」 「キス、して良い?」 「・・・・・・」 真っ赤になったリョーマが、暫く言葉を探してそれから目を伏せた。 言葉の代わりの合図に、不二は快くそれを受け入れる。 触れるだけの、キス。 「今度は、越前からして」 「・・・・っ・・・・」 「好きだよ」 告白に覚悟を決めて、接吻ける。 心臓が壊れるくらい高鳴って、辺りに響いていたらなんて 心配してしまった。 リョーマから重ねられるそれを受け取って、不二は更に口付けを 深いものにする。息を奪うような、捻じ込むようなそれに 息を上げると、力を失くした身体を優しく受け止められた。 (可愛いなぁ) さっきまでの威勢の良さは何処へやら、自分の腕の中で くたりとしどけなく寄りかかる華奢な身体に笑む。 常のリョーマも可愛いが、今日はなんと言ってもこんな出で立ち。 倒錯的な気がして、更にドキドキするのは男の性だ。 採寸まできちんと施されたメイド服は、似合っているなんて 言えばまた怒られるのであろうけれど、誂えたように 似合っている。黒と白のレースで、一般的な形のそれであるが ストイックさも醸し出していてそれが殊更劣情を煽る。 何処から、如何見てもメイドさん。 何処から、如何見ても美少女なリョーマに不二は自分のことを 棚に上げて感歎した。 (イケナイ気分になる) するりと短めのスカートの裾から内腿に忍び込んだ掌に、 リョーマがギョッと身構えたときには後の祭りだ。 「せ・・・・っせせ、先輩??」 「先輩じゃなくって、ご主人様のが気分盛り上がるなぁ。 ねえ、越前。キスもしたことだし、もう一段ステップアップ してみない?」 「何を塾の勧誘みたいなことゆってんですか!? てか、ご主人様!?アンタだってメイドさんじゃん!!」 「あ、そっかー。なら、僕がご主人様って言おうか?」 「イイっ!イイっ!!遠慮します」 「遠慮なさらないで下さいよ、ご主人様」 「ギャ―――――!!」 下着をひき下ろそうとする手を慌てて押さえると、今度は その隙に胸元のリボンを解かれる。 ヒッ、と息を呑むとやたらに艶やかな笑顔で不二は笑みを 深くするだけだ。 「最初から、コスプレは予想外だったけれど。 これはこれで、後々良い思い出になるよ」 「ならなくて良いっ!ぎゃっ」 「・・・・・ぎゃって、もう少し艶のある悲鳴をあげて 頂けませんか、ご主人様」 「何!?何そのプレイは続行なわけ!?」 「好きだよ、越前」 「―――――・・・ッ、ば、かっ」 降り注ぐキスの雨に、リョーマが陥落するのも 時間の問題だった。 大したトラブルもなく、学園祭は無事に終わり当然の如く 隠し撮りされた彼等のメイドさんな写真は広く出回るように なった。 「おチビ〜これこれ、噂になってるぞ」 不二と弁当を食べていると、菊丸がやってきて差し出したのは リョーマの2枚の写真だ。 彼は顔を顰めたが、両方とも何の変哲も無い?メイド服姿だ。 「コレが、何?」 「よく見ろよ。これが、昼前の写真で、こっちが昼の後の。 胸もとのリボン。結び方が違うだろ」 目ざとい女子が見つけてさ、今陰で噂になってるぜ。 他人事のように言う菊丸に(実際他人事だ) リョーマは思い切り噎せて、不二は微笑むばかりだった。 私はよっぽどリョマさんをナンパさせたいのですね。 そこがベタベタで申し訳ないのですが、その代わりメイドさんが 不二先輩もとか斬新だろ!!(自分で言うな) 結局ギャグになりました。 |
| SEO | [PR] 花 冷え対策 再就職支援 わけあり商品 | 無料レンタルサーバー ブログ SEO | |