ピーンポーン 未だ空に薄い闇が残っている明朝。 身に凍みる寒さに、きゅっと蒲団を手繰り寄せてリョーマが 身体を丸めていた頃。 その客はやってきた。 夢現に漂う意識に、こんな時間帯に誰だろうと 思いつつも眠気の方が打ち勝ち、 応対は起きている家族に任せることにする。 案の定、応対は家族がしてくれたらしく小さな話し声が 時折響いた。どうやら、父親が話しているようだ。 ――――と。 「じゃ、まあ、上がって待っていてくれや。 リョーマ未だ眠ってるみてえで」 「じゃあ、お邪魔します」 ―――ん? ドタドタドタ(階段を駆け上る音) ―――――んんん? バン(部屋の扉が開かれる音) 「おい!リョーマ!早く起きな!しっかし、お前も 中々やるねえ。いや、流石オレの息子っつーか、なあ!! 何時の間にこんな美人な彼女作ったんだ? しかも、年上たぁ、やるじゃねーか」 ―――――彼女・・・・!!!??? ワンブレスで言う父親の声をボンヤリ聞き流していた彼も、 身に全く覚えのない人物表現に、流石に何事かと 蒲団を飛び出し起き上がると、既に父親の姿は其処に無く、 代わりに 「おはよう、越前★寝起きも可愛いね☆」 なんて、華の毀れるような笑顔を惜しげも無く振り撒いて 恋人が艶やかな振袖姿で現れた。 落ち着いた濃紺の生地に、華美になり過ぎない花模様が 散りばめられている。帯は黄金色、御丁寧にショートカットの 髪の毛を纏めてピンで簪まで付けている、えらい念の入り様だ。 目の前の、この美人なお姉さんはしかし明らかに不二だ。 もう、泣きたくなるくらい不二だ。 認めたくなくても、不二だった。 正月初っ端からこんなに身体に良くないものを 見ることなんてあろうかと、リョーマは思った。 見目麗しい彼のことだ、目には良いかも知れないけれど 心臓には御世辞にも宜しくない。 寿命が縮まった気さえする。 起き掛けにそんな衝撃的なものを見たショックで、 フリーズした彼の目の前に掌をハタハタとちらつかせて おーい、と不二は声掛けてみた。 「何処か変?僕は似合っていると思うんだけど」 「いや・・・似合っては居るんですケド・・・」 そう、似会っては居るのだ。それも、凄く。 すらりとした姿態に、もとより女顔ととれるかんばせは 薄化粧も手伝ってリョーマの知りうる限り誰よりも綺麗だ。 十中八九、これが男だと言っても誰も信用しないだろうと 自分の容貌を棚上げし、思ったほどだ。 それ位似合っていた、似合いすぎて怖いくらいだ。 だが、ソレとこれとは別問題だろう。 「何で、女装・・・・?」 ぐるぐると回転する頭でリョーマは至極真っ当な 質問を、恐る恐る口に出していた。 これで趣味、とか笑顔で言われた日にはこの人との 交際どころか部活のチームメイトとしてやっていく自信も 揺らぎそうだと頭を痛めたが、返ってきたのは或る意味 余程頭の痛い回答だった。 「終業式の日に、冬休みに一緒に初詣に行こうって誘ったのに 越前ったら『男同士で初詣とか、恥かしいし』って 言うのだもの」 「言いましたね、確かに・・・」 「だから」 「――――エ?」 「これで、恥ずかしくないよね?」 言うとふふ、と色めいた笑みを浮かべくるり、と肢体を回してみせる。 「それだけの為か――――――――っ!!!」 珍しくリョーマの発した大声は、びりびりと硝子を振動させる 程であった。 「言いました、確かに言いましたよ!! でも、その前後を思い出して見ろよ!アンタが初詣に一緒に 行こうと言い出したのは、矢鱈に縁結びで有名な神社で 近場だってこともあるし、何よりカップルが多い! 断わるだろ?普通断わるでしょ??」 「僕たちだって、カップルぢゃん。越前、ひどーい」 態とらしく泣き真似をしてみせる不二を綺麗サッパリと 無視して、尚もリョーマは続ける。 「アンタと付き合うとき、言いましたよね? オレ、言ったよね?恥ずかしいから、周囲には秘密だとか 言わなかった?」 「ああ、思い出したよ。顔を紅く染めて、僕の告白を OKしてくれた君といったら可愛かったなあ・・・」 「其処ぢゃねえ!人の話聞けよ!」 「分かってる、分かってるって。何だかんだ言っても、 越前も初詣行きたかったんだよね。 僕が、それに気付いていないとでも?」 「気付かなくていいから!てか、行きたくないから!」 「素直ぢゃ無いのは、ベッドくらいにしときなよ、ねえ?」 「ギャ―!!な、何言ってるんスか!黙れ!黙れ!黙れ!!」 「大丈夫、お義父さんにも了解は取ったし、さあ。行こうか」 「お義父さん呼ぶな!何了解してんだあのクソ親父!! 待って!せめて着替えさせて!」 寝間着姿のまま、自分を抱え込んで外に出ようとする不二を 必死に止めて仕方なくもう、10000歩くらい譲歩して 着替えてからなら・・・と項垂れながらリョーマは 初詣に行くことを了承した。 この時点で、既に今年の行く先が見えた気がする。 セーターにコートを羽織り、マフラーを無造作に巻き付けると 不二の待つ玄関に急ぐ。 不図、スニーカーを履く為に座り込んで足元を見れば どうやらこの男、下駄まで履いてきたらしい。 此処まで来ると、呆れを通り越して感心するよと思った。 神社は案の定、何処からこんなに人が集まったのかと 思う位人口密度が高く、リョーマの杞憂どおりカップルが 多く全体を占めていた。 矢張り、普通に不二と来たら悪目立ちしていたに違いないと 思う。それを話すと、そうかなあと小首を傾げる。 「僕は、今思ったんだけど普段の姿で君と来ても カップルに見られる自信はあるんだけど」 「・・・オレがチビだって言いたいの?」 「ううん、だって越前女の子みた・・・・」 最後まで言うか否かの内に、思い切り足を踏ん付けられて 慣れない下駄に足を取られ、不二も流石によろめいた。 危ないな、と不満を言うとそれこそ極上の笑みでリョーマが 笑う。本人たち、意識していないかも知れないが周りからは とても仲の良い恋人同士に見られていたのを、 リョーマが知らないのは、幸いかもしれない。 そうこうしている内に、境内まで流れ着いた。 意外に早かったね、等と話してそのまま賽銭を取り出す。 境内に設置されている鐘を鳴らして、賽銭箱に鐘を投げると 心地良い音が耳に響いた。 手を合わせ、瞼を臥せる。 『神様、この人の暴走癖を如何にかしてください。 オレはかなり困り果ててます。あと、平穏な毎日を下さい。 でも・・・えっと、でも初詣に一緒に行きたいが為に 女装までしてくるバカって、探したってそうそう 居るものではナイと思うんで・・・もう少し、一緒に 居させてクダサイ』 目を開けて、未だ横に人の居る気配を感じ取り そっと横を見遣る。 眸を頑なに瞑って、未だ何か必死に願事をしているであろう 不二が、自分たちのことをそんな必死に祈っているのかと 思うと可笑しくて少し笑った。 「何願ったの、そんなに必死に」 「うーん、言っても良いけど。願いって、言うと叶わなく なるだとか聞くし、やっぱりやめておくよ」 「・・・まあ、言わなくても大体想像付くんスけどね」 「越前こそ、何を願ったの」 「オレも、叶わないとイヤなんでやめておく。 聞かなくても、想像つくでしょ?」 ね?と笑いかけるリョーマに不二は珍しくやられた。と 苦笑した。 「御神籤、どうせだから引かない?」 「ああ、いいね。これで、大凶とか出たらどうする?」 「それは、それで。・・・まあ、何とかなるでしょ」 「・・・・越前、冷たい」 「何とかするよ、オレが。何とかしてよ、アンタも」 え?と聞き返す前に、御神籤置き場に走り出す。 人込みの間を縫うように、器用に駆け抜けるのは スニーカーの彼の方が断然有利で。 転ばないでよ、と言いながら後を追った。 「凶と出るか、吉と出るか、ね」 ギャグなのか単に甘いのか微妙。新年早々趣味に走りました。 寧ろ全力疾走でフルマラソンな勢いです。今年も宜しく。 攻めの女装が好きとか、あたし位なんだろうか。 時めきませんか、御嬢さん。一寸そこ、憐れまないで!! 不二先輩は女顔だよね、と言うお話。この話を 跡リョで書かなくて良かった、と今、心底、心から思いました。 |
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