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All's fair in love





生意気なガキだな、なんて思ったのが最初で。
不謙遜な態度にむかついたのがきっかけ。
改めて見れば、華奢な体躯に大きめの衣服から覗く白い、肌。
思いの外長めの睫毛に、一寸きつめの大きな目。
中々見ない整った顔立ちに、興味をそそられた。
それだけ。




拘束された、手首が痛いなとリョーマは思った。

あ、あとそう言えば咽喉も渇いた。

門限は6時とか(自分は女子ぢゃないのに)言っていた父親の事も

考えた。早く帰らなければ、ならないのに。

現在時刻、多分5時30分くらいだ。

先程確認の意を込めて眺めた公園の

大きな時計の文字盤が目に焼きついている。

父親のいうことは、其れほどまでに気にしてはいないものの

心配性の同居人の従姉と母の作った夕餉が冷めてしまうことを

彼は危惧した。

今日は、確かリョーマの好きな和食になる予定だったのに。

こんな事なら、休みの日くらい家でゲームでもして過ごすんだった。

やたらショッピングに付き合ってくれと誘ってくる先輩とでも

出かければ良かった。そうすれば、少なくとも

こんな事態は避けられたような気がしてならない。

強ち、それは外れでは無かろう。

ウンザリとした様子でリョーマは先程から自分の手首を

一纏めに戒めている人物の顔を仰いだ。

知っている顔である。

「一体、何のつもりっすか猿山の大将。てか、放してくれない?
 手、痛いんすけど。テニスに支障が出たらどうすんの」

「放したら、逃げるだろ、オマエ」

ええ、逃げます。ダッシュで逃げます。

と咽喉元まで出掛った言葉を押し殺し

そんなコト無いよと冷静を繕って言った。

跡部は、チラとそんなリョーマの様子を見て嘘だな、と短く呟く。

―――どうやら、この男思っていたより勘が鋭いようだ。

ちっ、と心中でリョーマは舌打ちした。

何故こんな事になっているのかと問われれば、

リョーマにも答えられない。

彼は、自宅から少し離れたテニスコートのある

公園で練習をしていただけだ。

薄暗くなってきたから、そろそろ帰るか。と

仕度を始めた矢先、同じく練習に

来ていたらしい跡部と鉢合わせすることになったのである。

別段気にもとめず、

『猿山の大将ぢゃん』とか『今度、オレと試合してよ。負けないし』

などリョーマとしては挨拶程度の挑発を何時もの如く口にした。

何を思ったか、フゥン、と呟き跡部は

半ば引き摺るようにリョーマを此処に連れてきた。

―――そして、この事態である。

何のつもりか、なんて先程聞いたものの

何となく悪い予感めいたものは感じ取っている。

人気の薄い、公園。

其の上よりによって、人目につかない木陰。

如何やら、力では適いそうも無い。

相手は、どう考えたって常識の通じなさそうなニンゲン。

薄暗い、辺り。

こんなところでまさかテニスをするわけでもないし

ましてや、何だ。『オトモダチになって下さい☆★』

とかいうわけでもあるまい。

このあと、『生意気なんだよ、オマエ!』とか

お約束なパターンの台詞を吐いて

彼の仲間がぞくぞくと現れリンチでも食らうか、あるいは

『一寸金貸してくれない?』とか言って、

金品を巻き上げられるか脅されるか。

あるいは・・・・・・。

一番嫌なパターンを考えてしまって、

リョーマは考えるのを拒否したくなった。

ニッポンも随分治安の悪い国になったなあ、と思う。

取りあえず、手首の戒めを如何にかしようとするものの

動く事すらままならない。

懸命にもがく自分の様子を、目の前の男は面白そうに見ている。

畜生。

足は、自由なんだ。

蹴ってやろうかとリョーマが思うと同時に、彼らの背後で

ガサと物音がした。

何だか、白いモワモワした物体が彼らに近づく。

犬だ。

「ん、もう待ちなさいってば〜!!」

その直ぐ後に、若い女の声が聞こえて来た。リード紐をしっかりと握っている。

どうやら、飼い主らしい。シメタ、とリョーマは思う。

形勢逆転か!?

ここで彼女が自分たちに気付けば後はしめたものだ。

リンチだろうが、カツアゲだろうがナニだろうがとりあえず

この場は免れる。あわよくば最寄の人も気付いてくれる筈だ。

案の定リョーマたちに気づいたらしい女性は、小さく声をあげる。

が、その後。

「やだ、ゴメンナサイね、お邪魔しちゃって!!気にしないでね!
ホラ、シロ行くよ」

何をどう勘違いしたのか手にとるように判る場違いな台詞を残して

犬を連れて走って行ってしまった。・・・・は?

半ば、呆然と声も無く見送るリョーマに顔を近づけ、跡部は

「よぉ、残念だったな」

と耳打ちする。直にかかる吐息のくすぐったさに

思わずリョーマは身を竦める。

おや、といった様子で見る跡部と思い切り視線がぶつかる。

しまった、と思った。

「耳、弱いわけ?」

更に、耳元で囁く。目が、面白い玩具を見つけた子供のようだった。

内心似たようなものに違いない。

またビクッと身を竦めたリョーマは、しかし屈することなく言った。

「放せって、言ってるんだけど!」

其れを見て、跡部は更に笑みを深いものにする。

彼は気の強い奴は嫌いぢゃない。

寧ろ、その反対だ。

こんな圧倒的不利な立場で。牙を剥いてくる気丈さ。

――面白いな、と思った。

最初は、その生意気さにむかついたのがきっかけ。

顔に似合わない態度や、いちいち人を挑発してくる言動に

ちょっとくらい脅しをかけてやろう、

と思ってこんな事態に及んだわけだが。

成る程、予想以上に面白い、と思った。

大きな目に、震える長い睫毛。

この年頃特有の成長しきれていない危うさを漂わせる雰囲気。

すっぽりと、腕に収まってしまう小さな身体。

どうせ脅すなら、面白い方がイイと思った。

それだけで。

「ハ、やっぱり生意気なガキだな、お前」

「煩い」

クックッと、咽喉で笑う。腕にこもる力にリョーマは怪訝な顔をした。

「すっげー、苛めたくなる」

「!?ん!」

言って、其のまま深く口付けた彼に、リョーマは思わず目を大きく開いた。

「―――っ!!」

抗議の言葉さえ、難無く音になる前に唇に奪われていく。

濡れた感触が、隈なく口腔を犯す。

懸命に、身体を押し返そうとするが酸欠状態の脳は上手く機能せず

弱弱しい抵抗になるだけだ。

慣れない感覚に、思考が付いて行かない。

――駄目だ、此の侭では本気で奴の思うツボである。

―――ところが。キスをする際に、跡部は

リョーマの手首を拘束から解放した。と、いうより今まで彼の手首を

戒めていた自分の手を口付ける際に

彼の後頭部へ廻したためである。

神様は、まだリョーマを見捨てていなかった。

今しか、ない。

意を決して、自由になった手を活用し渾身の力で目の前の

男を突き飛ばす。流石に、虚を突かれたらしい彼の頬めがけて

手を振り下ろす。

だが、これは寸でのところで食いとめられる結果になった。

「てめ、やるぢゃねーか。・・今のは、正直危なかったぜ」

「・・・クソっ!」

避けられたリョーマは、心底口惜しそうに顔を歪めた。

だが、跡部の身はリョーマの思惑通り

彼から離れることとなったので結果としてはオーライだ。

最悪、と言いつつ唇を拭う仕草をするリョーマに、

跡部は不敵に笑った。

「・・・てか、新手の嫌がらせっすか?スッゲーダメージ大きいんだけど」

フウと、溜息を吐きながら髪の毛をかきあげる。

嫌がらせ、以外にどうにも理由の見当たらないリョーマは顔を怪訝そうに

歪めた。嫌がらせなら、もっと有効なコトやりなよ。と、零す。

「へえ、今の有効ぢゃ無いってコトかよ?って、ことはナニお前
 今のイヤぢゃ無かったんだ」

笑いながら、言う彼の言葉にリョーマはその意味を理解した途端

思い切り顔を赤くした。

「――――!!そうでなくて!!アンタだって、男とキスなんて
 イヤぢゃん!だから、損だよってこと!!」

アンタと喋っていると疲れるよ、と小声で呟いたリョーマの言葉は、

しかし跡部の耳には届かなかった。

「別に、イヤぢゃ無かったぜ?」

「ハア?」

何ソレ、とリョーマは問い返す。

だが、言った跡部の方も自分の言葉に

些か困惑していた。―――マジかよ。と一人ゴトみたいに言う。

気になる。

苛めたくなる。

キスが、イヤぢゃ無い。

導き出される感情の答えに、ヤバイと心中で反芻した。

「ねえ、何ソレ?」

ちらと、目線を遣る。

先程までの、初初しい態度は何処へやら相も変らず

年下とは思えない態度で自分を見る少年を跡部は目で捉えた。

小さく、華奢な体躯とか、生意気な態度。

かと、思えば驚くほど頼り無いキスの最中の仕草。

「・・・嫌がらせの、つもりだったんだよ」

「ふうん、やっぱり?」

口を開いた跡部に、何時の間にか懲りずに近寄ってきたリョーマは

頷く。自分で仕掛けておきながら、懲りない奴だなと跡部は思った。

「最初は、な。・・・・・・あー、マジ誤算だぜ!!」

「あのさ、何いってんのかわかんない。」

「途中から、本気になった」

「―――ハイ??」

「好きになった。お前、俺と付き合わねー?」

なんの、悪びれも無く聞いてくる独裁者にリョーマは一寸頭痛を催す。

よく、意味が分からないが。

日本での付き合うの意が、男女間の

デートやら、キスやらを伴ったものであること位海外生活が長かった

彼もきちんと理解していた。(或いは周りに理解させられていた)

だが、それだけに彼は困惑していた。

行き成り、連れて来られて。

キスをされて。

付き合えと。

一体誰が、OKするというのだろう。

そんな状況で。例にもれず、リョーマは

「謹んで、お断りします」

きっぱりと断った。

「あ?俺様の何が不満なんだお前!」

其の言葉に気を悪くしたらしい跡部が更に食って掛る。

「強いて言えば、全部」

「何!?顔良し、性格良し、将来性有望の俺の何処が!」

「スイマセンが、顔以外は了解できない」

いかにも高慢そうではあるが、顔は整った部類だとも思うケレド。

強豪のテニスチームの部長っていうんだから若しかすると将来

有望かも知れないケレド。(有望だとしてもこの性格が災いしそうだ)

先ず、男同士という話を差し置いても。

こんな俺様な奴とは付き合えないと、リョーマは固く思った。

「それより、先ず謝れ。さっきの事」

「なんで、謝らなきゃいけねーんだ!?悪いことしてないだろうが」

「そーいう所が、イヤだっていうの!!」

リョーマの言葉に、やっとぐっと跡部が言葉に詰まる。

良し、反省したかと思いきや

「ぢゃあ、アレだな?
俺様が、此処で謝れば、お前は不満はないんだな」

「まあ、そうだね」

「ならば、俺と付き合うよな!」

「え?」

またしても、予想外の言葉に今度はリョーマが言葉に困った。

「言っただろう、お前。俺が謝れば不満はないと」

「あ・・・・イヤ・・・そーいう意味ぢゃ・・」

「俺に不満が無いなら、付き合ってもイイってことだよな?」

「イヤ・・・だから、それは・・・」

段々、窮地に立たされていくのが判る。

そう言えば、とリョーマは思った。

先輩が話していたことだが、この跡部という男人の弱点や揚げ足をとることが

ある意味天才的に上手い。と。

まさに、今それを身をもって実感する事に

なってしまった自分の運命を呪った。

「ぢゃあ、謝ってやる!!」

謝るにしても、もう少し言い方は無いのだろうか。彼が、人生の中で

どれほど謝るといった行為に慣れていないかを物語る。

「悪かったな、さっきの事は!あ?これでイイか!?」

「・・・・も、イイっす」

リョーマは何で、俺がこんな目に。と思いつつ大げさに溜息を吐いた。

だが、それが相手に伝わるかと言ったらそうではない。

「じゃ、今日はとり合えず送って行ってやるよ。お前の家、何処だ」

「少し、遠いけど・・・アンタ、チャリでしょ?氷帝って此処から遠いじゃん」

「バーカ。家のモノに車で迎えに来させてやるよ」

家の、モノ。

家族、とか父とか母とか言わないそのニュアンスに

リョーマは何だかイヤなモノを本能的に感じ取った。

「・・・ねえ、嫌な予感がするから聞くんだけど」

「何だ」

「家のモノの、車の車種と色を言ってくれない?」

「特注の金色の・・」

「ネ、歩いて帰りません?」

そんなモノが、家の前に停まった日には近所中の噂になること

この上ない。驚く家族の顔が安易に想像できる。

その事態だけは避けたいリョーマは慌てて提言した。

「別に、イイゼ。それも、確かにいいな。俺と二人っきりで
 帰りたかったのか、早く言えよな」

「・・・そう思ってたら?」

何処まで勘違いすれば気がすむのか、この男は。と思いつつも

リョーマは岐路につく。横の跡部が、さり気に車道側を自分の歩調に

合わせて歩いているのに、かなり吃驚したのは秘密だ。

「しかし、もう真っ暗ぢゃねーか。お前、毎日こんな遅くに帰るのか」

「そーだけど」

「危ないから、今度から言えよ。迎えに行ってやるから」

「いいっすよ。アンタの方が危ない気がするし。
・・・もう、襲わないでよね」

「―――」

無言かよ。

嫌いになるよ、と付け加えれば、漸く

「・・・ああ」

了解の返事を得た。

リョーマは、どうやらこれは使えるらしいと口元に笑みを浮かべる。

成る程、厄介には厄介だが扱いに慣れればこれは

これで面白いかも知れない

(少なくとも、テニスの練習相手にはもってこいだ)

どうせ、厭きるまで離してくれないだろうからなと思う。ならば、

プラス思考で考えるべきだ。そうだ。

「オレ、お前っていう名前ぢゃ無いからね。因みに」

「奇遇だな、俺もアンタなんて名前ぢゃねーよ」

「越前リョーマ」

「跡部景吾」

「跡部、さん?」

「景吾で、イイ。おい、リョーマ」

「何」

「何でもない、呼んで見ただけだ」

そのあと、薄暗くてよく見えないがむこうを向いた跡部を見て

リョーマは彼が、照れているらしい事感知する。

――嗚呼、何でこんな傍若無人で俺様な奴がモテルのか少し判る気がする。

自分の学校の女子にまでファンの居る彼に、如何してか今の今まで

疑念を抱いていたリョーマはそんな事を思った自分の考えを

こんな混乱した状況の所為だと思ってしまいたかった。

「オレ、景吾の顔は結構好きだよ」

「お前は、男であるって事以外はやたらに
 俺の好みそのものだぜ、リョーマ」

滅多な事言うなと、蹴った足は今度は間違いなく命中した。

家の明かりは、直ぐそこに見えていた。

門限は、もうとっくに過ぎていたけれど。









*うわ、いつもより長いんですけど!本当は今日アップする予定で
 無かったのですが気が変りました。――友人に跡部良いよね、
 俺様具合が良いよねと説明していたのですが、何を勘違いしたのか
 彼女がとあるHPのアドレスを送ってくれました。跡部様受けの。
 ―――無言。
 ヒイ!スイマセン!不二受と跡部受は何が在っても
身体中の細胞が拒否反応を起こすので勘弁してください!!









2003.02.08




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