好きなんです、と彼は言った。 「好きなんです、先輩のこと」 ありきたりな台詞、と思ったのが強いて言えば感想で、 自慢になりそうだけれどこういう機会が少なくない僕は、それでも さすがに当惑した。 同性、それも後輩に告白されるなんて思ってもみなかったからだ。 『ホラ、不二君優しいし』 『かっこいいから』 優しいなんて、みんなに優しいなんて、単なる仮面だ。 そんな完璧な人間じゃない。 みんなに優しいのは、だってみんな好きじゃないから、 僕にとって誰も特別じゃないから。 面白い後輩だと思っていたのに、この子もどうせ見せかけに 惹かれたのかと思うと苛立った。 虚構の見せかけを作り出したのは、自分自身だというのに バカげた苛立ちだ。 「それで、君はどうしたいの?」 「え?」 予想通りの困惑した声。 「僕を好きなんでしょう? それで、どうしたい?僕と付き合いたい? キスしたい?」 意地悪をしている自覚はあった。 手酷い断り方だとも思った。 好意を踏みにじる、けれど先に僕を偶像化して汚すのは誰だ? 思い込みで、見違えて。 結局は、この顔で身体で愛を囁き、触れてもらいたいだけ。 僕を支配し、私有化したいだけ。 けれど。 越前は決して怯まず、見据えた。 その瞳で。 僕を全て見透かしたみたいな、黒い夜の瞳で。 「俺は、付き合いたいとか。そういうんじゃないっス。 付き合いたいなんて、エゴじゃん。 想うことに見返りなんていらないよ。 好きなだけだから。 アンタを好きなだけだから、それだけ」 愕然とした。 僕の動揺を見てとったのか、彼は少しだけ困ったふうに笑って後ろを向いた。 付き合いたいと思わない? 好きなだけ? 受け取り損ねた気持ちがグルグルと地面を回転させる。 好意を抱いているのは、彼で。 対象は僕で。 「じゃあね、先輩。」 ―――――なのに、なんで僕が振られた気分? 立ち去る彼の腕を僕の右手が握り締めていた。 吃驚顔で僕を振り返るけれど、吃驚しているのは僕のほうだ。 賭けても良い。 言い訳をまだ何一つ思いついてもいないのに、 感情とはしばしば厄介なものである。 リョ→不二で、でも不二リョ。 ピュアな二人を書きたかったのです。最近の若い子(笑)は好き→付き合うまで 短絡的に結び付けすぎだと思うんだ。 もっと純粋な好意があっても良いんじゃないでしょうか。 好き、というだけで大事にしたい気持ちがあっても素敵なんじゃないでしょうか。 |
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