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ファースト・ラブ









親類の結婚式があるからと、父母の生まれ故郷である日本へと
一時帰国してその後久しぶりに旧友に会うと言い出した父親は
母親を伴って出て行った。
留守番を言いつけられ、暫くはホテルで大人しく過ごしていた
リョーマもやがてテレビを見るのにも飽きて、それから
思い立ったように部屋を出ていく。
大体、滅多に日本になんて帰ってこないのだからホテルに缶詰
状態なんて冗談じゃない。
観光もしたい。財布を覗けば、両替した金がそれなりに入っている。
見知らぬ土地では何かと不便だからと用心のため、少し多めに
渡された小遣いを見て子どもは満足そうに微笑んだ。

「俺も、もう十歳だし。一人で街くらい歩けるもん」

豪華な造りのホテルのフロントを抜けて、自動扉を潜った先は
青空と聳え立つビル街だった。












観光地らしい観光地になんて行き当たらないが、普段自分が
暮らしているところと比べて異国の街並みはそれだけで楽しい。
日本と聞いてから、ずっと侍だの芸者だの富士山だの外国人に
ありがちな間違いだらけな見解をして訪れるのを楽しみにしていた
彼はその過ちに気付いて、自分たちが住む国の中心街と大して
変わらない様相を見せた街に些か驚いたり、一寸だけがっかり
したりもしたが、それでも気分は上々だった。
何せ、一人歩き。
アメリカに居る時は、両親が絶対に許してくれなかった。

『バカヤロウ!お前を一人歩きさせるなんて、犯罪者に
 浚われるのを黙って見てろみたいなもんだ』

『そうよ!折角こんなに可愛く生んであげたのだから、
 少しは自分の外見を自覚しなさい』

・・・・・・・・・・・何を自覚しろと言うのだ、何を。
それでも尚食い下がろうとしないで居ると、ならばこれを
持っていけと真剣な目をした母親に渡されたのは、如何見ても
本物の重みを持ったピストルだった。
―――――一体何処に冒険に行けというのだろうか。
魔王かテロリストでも相手にしろというのだろうか。
それを見て大爆笑していた従兄弟を今でも思い出す。
大体、心配性すぎるのだとずっとずっと思っていた。
思っていた、が。

(・・・・・・・・・・・・・・強ち、間違いじゃないかも)

いつの間に取り囲まれたのか、2・3人のどう贔屓目に見ても
ガラの宜しくない私服の少年たちを見てリョーマは溜息を吐いた。

(東京の歩き方マップとか、持ってくれば良かった)

案外治安悪化しているんだなーなんて人事のように思う。
人気はあるものの、あまり目に付かない路上の端で逆に人が多い
ことが隠れ蓑になってしまっている。
勿論此処に来るのは初めてだから、喧嘩を売られる覚えは無いし
顔見知りでも無い。
冷静に考えて、きっと碌なことじゃないだろうと幼い頭でも
理解は容易かった。正解だ。

( どうしよっかな・・・・・・・・)

大声で助けを呼べば、若しかしたら正義感の強い誰かが、
しかも幼い少年のピンチとあったら通行人でも
助けてくれるかも知れないがそれで警察にでも保護されれば、
それで観光はお終い。
ついでに父母にもこってりと怒られ、次から一人歩きどころか
外出すらままならなくなり下手をすれば、ピストルどころか
猟銃や大砲を持って歩けとか言われそうだ。
・・・・・・・・・・・・冗談じゃなく現実味を帯びて怖い。
それは避けたいが、態々ターゲットを自分に絞っている辺り
ごめんなさいじゃあ済ませてくれないだろうとも思う。

(となれば、アレかなあ?)

「Excuse me,but I'm a stranger .Who are you?」

にっこり。
無邪気さを全面に出した笑みと、ついで流暢な英語。
日本人は英語嫌い(苦手でなく、嫌いなのだ)と聞いたことがある
から、コレで大概の人間は引く。
結婚式のあった時に、親類にほんの冗談で英語で話してみたら
大概困った顔をされた後乾いた笑いを返された。
その時を思い出し、恐らくこれが最も有効且つ安全な手段だと
彼は判断したのである。
案の定、まさか英語で話されると思っていなかったらしい
少年たちは一瞬目を見開いてそれから互いの顔を見つめあった。

(は、ざまあみろっつの)

勿論リョーマは日本語も出来る。
両親共に日本の出身なのだから、家では基本的に日本語を使うので
未だ難しい単語等は分からない部分もあるが、同じ年頃の生粋の
日本で暮らしている子どもと比べても大して語力に差異は無い。
心中で舌を出しつつ、表面上は笑ってみせる。
カツアゲだか、なんだか知らないが流石に異邦人を相手には
しないだろうと踏んだ。

「・・・・・・・・オイ、日本人じゃないのかよー」

「マジ?やー、可愛いなーって思ったけど、外国の子か」

「いーじゃん。国際交流ってことで。心意気で通じるんじゃない?」

「マジかよ。でもさ、こんな可愛い子確かに滅多に居ないし」

「お譲ちゃん、お兄さんたちと遊ばない?」

「だから、通じないっつの。お前、馬鹿?」

ぎゃははは、と下卑た笑い声を聞きつつ、今度はリョーマが
固まる番だった。
―――――今。
今、聞き間違えとかあと幻聴で無い限りこいつらは何て言った?

(・・・・・・・・・・要するに、ナンパかぁああ!!)

正直、こんな事態はアメリカに居ても無かったわけじゃない。
それでも、東洋人の外見は向こうに居ると実年齢より大分
幼く見えるため小柄なリョーマは同年代というよりも、それより
少し下の子に懐かれ、道端で求愛された、とかそんな微笑ましい
事柄が大半だった。中には、一寸アレな趣味のお兄さんとかに
ナンパされたりもしたけれどそれは無かったことにしている。
彼の中で。
大体、女装をしているわけでもないのに女に間違うなんて
失礼だ。今の恰好は暑いのでラフに割と細めの黒いシャツに
ジーンズ。特に際立った恰好でない。
リョーマは勿論自分の外見がどれ程人目を惹くかなんて
考えたことがなかったし、勿論今後も考えることがないだろう。

(・・・・・・・・・失礼だ。チョー失礼。でも、間違いだし、
 それを訂正してやるのも可笑しいし・・・此処は)

無視が一番。
思って、くるりと踵を返そうとした瞬間。

「おい、待てよ」

ぎゅっと手首を握られた。

「―――――!!」

人の話聞いていたのか、あんた達!
否、寧ろ通じないから聞いていないのか!
聞いていないから、こういうことになるのか!
いきなりの事態に、咄嗟に構えて体勢を整える。

「Don't touch me・・・!」

それでも尚振り切ろうとすると、思い切り壁に押し付けられた。
あまり綺麗でない壁に、しかも会った途端この仕打ち。

「ちょっとくらい、時間いいだろ?」

此方が明らかに年下だと思って、ナメているのかと瞬時に
理解してリョーマは?みかかる手を払い落として、思い切り
蹴りをかました。

「――――――!?」

流石にこれは効いただろう。
物騒な事態に備えて、日ごろから武術の類を少しでも習わせて
くれた親には今度こそ感謝だ。

「コイツ・・・っ!」

「てめえ、良くも!」

仲間と思われる二人がガっと?みかかってくるのに、その喧騒に
通行人も幾らか気付いたようである。
だが、こんな見知らぬ土地で助けが入ることなんて端から期待
していない。自分の力だけで、トラブルは解決するつもりだ。

(折角、良い観光出来そうだったのに)

3人相手は、ちょっと難しいかなー。
怪我したら、何て言い訳しよう。
リョーマは溜息を吐きながらも、標的を次に移す。

(勿論、負けるつもりなんて無いけれど)

大体、ナンパならナンパらしくもう少し至れりつくせりで
対応しろよ。
上体を少し低く構え、一撃必殺を出来る限り狙おうとしたとき
丁度その時だった。

「いい加減にしとけよ。日本の恥の上塗りする気か手前ら」

些か低めの、耳に心地よい声が人ごみから聞こえてきたのは。

「そんなやから、アンタらはモテんのやで。もっと、こう
 上手いことエスコートせなあかんやろ。なあ」

今度は、不思議なアクセントのこれまたよく響く声。
リョーマも、勿論少年たちも数人の通行人さえも声の主に
目が釘付けだった。

「顔だけでなくて、頭もわりーとかもう救いようがねえ馬鹿だな。
 失せろよ、目障りだ」

すらりと均整の取れた肢体。
高慢そうだが、少し見ないくらいに整った顔だち、上からの物言い。
一見して高級そうなイメージを、染められたアッシュブラウンの髪
だけが覆し、ただそれさえも少年のイメージにとても合っている。
やや派手になりがちな開襟襟の花柄のシャツを、崩しながらも
下品にならず着こなして彼は居た。
その後ろで、何故かこれ見よがしに溜息を吐いている少年は彼の
友人だろうか。此方も、雰囲気は全く異なるが美形と充分に
言える造形の持ち主でフレームの薄い眼鏡がインテリジェンスな
空気を与える。何となく、年上にもてそうだ、なんてリョーマは
思った。

「跡部と居たら、絶対トラブルに見舞われる気がすんのやけど」

「五月蝿ぇよ。人をトラブルの元凶みたいに言うな」

「事実やん。てか、お前がトラブル・・・ぶっ」

ガス、っと少しの躊躇も無く鳩尾に入れられたパンチに眼鏡の方が
腹を押さえた。勿論、入れたのは突然現れた綺麗な(不機嫌そうな)
彼である。

「さあてと。俺はな、今結構機嫌悪いんだコレが。
 珍しく借りに行ったビデオ店で俺の見たいものは出てやがるし、
 仕方が無いから買うかと探すけれど、これまた在庫がねえし。
 ああ?」

―――――完全な、因縁だ。

「そこに、通行の妨げになりそうなガキが数人。話を聞いてると、
 どうにもまた胸くそわりーこと言ってるじゃねえか。
 だろ?だが、俺も鬼じゃねえ。今謝れば許してやる。
 そこと、そこと、そこのお前。俺と、その絡まれてたガキに
 謝って失せろ」

いや、アンタだってガキじゃん。
幾つか上には見えるけれど、決して大人というわけではない。
何だ、この俺様野郎は。
一応、助けてくれているのかこれは。
リョーマが状況の把握に苦労していると、どうも加害者の彼らも
同じらしい。暫く、ぽかんと口を開けていたがやがて自分たちを
侮辱されていることに気付いたのか

「何だ、てめー。いきなり出てきて」

「此処はおまえの出る幕じゃねえだろ」

「やるか?あ?」

とお決まりのパターンの台詞を吐いた。
これで、3対3だが如何出るのか。

(いきなり、出てきたけど、コイツ強いの?)

如何出るべきかと考えて、リョーマが動きを止めている間に
既に少年たちは喧嘩モードに入ったらしい。
出てきた彼の胸倉を掴みあげて、それから大きく拳を
振りかざす。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ)

危ない・・・!
と思った瞬間。
だけれど、リョーマは見た。
跡部、と呼ばれた彼が不敵な笑みをその端正な顔に浮かべた瞬間を。


























勝負はギャラリーが息を呑むほど一瞬で決まった。

「俺様に喧嘩売るなんざ、良い度胸じゃねえか」

ふん、とほぼ一発で仕留めた相手を足元に少年は息を整える。

「やー、お見事お見事。さあて、騒ぎにならん前に
 とんずらするで?」

「―――――あ?逃げるのかよ」

「だって、オマワリさんでも来てみぃ。幾ら言うても、
 手を出したんはこっちになるで。お前、無傷やし」

「・・・・・・・・・・・・・ちっ、分かったよ。おい、
 お前、お前も行くぞ?」

(・・・・・・・・・・・・・・へ?)

俺?自分を指差すと、そうだ、と彼は深く頷く。

「オマワリの世話になりてえなら、置いていくが?
 あーっと、分からないんだっけ。Policema・・・・・・」

ン、と言う前にリョーマは咄嗟に彼の手を握る。

「よし、行くぞ」

其処から気は、全力疾走で辺りを離れた。















「此処まで来れば、バレねーだろっ・・・・」

「ていうか、跡部、お前・・・・何その子連れて来とるねん」

「置いとくわけには、いかねーだろ?つっても、お前何処の子
 だよ・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・あーっと、そこの、ホテルに
 泊まってる・・・・」

息を整えながら、零すと彼らが一斉に驚いた顔をした。

「・・・・・・・日本語、出来るんや」

「まあね。さっきは面倒だったから、それで捲こうとしただけ」

「何処から来たんだ」

「アメリカー」

ぴ、っと空を指すと道理で、と二人が納得したようだった。

「さっきは、サンキュ。一人じゃ流石にキツかったから
 助けてもらえて良かった」

「別に、ガキとは言え女だろお前。怪我なんかするんじゃ
 ねえよ」

「そうそうー、折角そないに別嬪さんなんだから」

くしゃり、と髪の毛を撫でられてリョーマはひく、と口元を
引き攣らせた。二度目の無礼だ、本日。
とは言え、恩人にキレるわけにもいかずどうせ二度と顔を
あわせることもないだろうと誤解を解かずに放置する方向に
決めた。面倒だ、という思いが一番強い。

「しっかし、お前気が強いな。普通、あそこで喧嘩しねえよ。
 自分よか年上の男と」

「危ないで?」

「だって、ムカつくじゃん。年上ってだけで威張っている奴、
 嫌いだしそんなのに負ける気しない」

好戦的な色を眸に浮かばせて、そう告げると今度は二人が
顔を見合わせた後笑い出した。
何か変なことを言ってしまったかとリョーマが訝しげな顔を
すると跡部が此方を見据える。

「その気の強さ、気に入ったぜ」

「どーも。此方こそ、だ。さっきのアンタカッコ良かったよ。
 ヒーローみたいだった。今度こっちに来たら、また
 会えたら良いな」

連絡先、教えて?
改めて、礼も言いたいし、面白い人材だからまた会いたいと
素直に思って聞くと、鞄から素早くいかにも高級そうな黒い
手帳を取り出して何か書き付けて、それを破って跡部は
リョーマに渡した。住所みたいだった。

「・・・・・・・・・・・俺は、ガキは好みじゃないけれど
 お前なら絶対俺好みに育つだろうしな。
 大きくなったら、俺の女になれよ」

待ってるぜ?
耳元で低く、甘く囁いて、それから頬にキス。
横で友人が喚くのも気にならない風に、大人顔負けの
艶のある笑みを浮かべて彼は笑った。













ホテルに戻ると顔色を変えた両親とフロントで再会し、
案の定こってりと怒られたが何とか外出禁止令までは出ずに
済んだ。勿論騒動のことなど触れず、一寸寂しくなって外を
散歩しただけ、と告げたのみだ。

「そんな寂しかったなんて・・・・お母さんが悪かったわ!
 もう二度とリョーマを一人で置いていったりしないから
 こんなママを許して!」

「悪かったなリョーマ!お前が無事でよかった!」

わあわあと騒ぐ両親に、少しだけ、少しだけだが心配を掛けるのを
控えるように努力しようと幼心にも少年は思った。

「もう少しで自衛隊を派遣して捜索してもらおうとパパと相談
 していたのよ」

「日本も物騒だからな!何、心配ないぞ。警視庁に知り合いが
 居るからな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

―――――暫くは、一人で外出も控えよう。





間も無く帰路に着いた飛行機の上で、父母の生まれ故郷に
さようならをする。
機内食を食べて、満足したのか窓から名残惜しそうに外を
眺めているリョーマを微笑ましく見つめて、一人で冒険した
ときにどんな珍しいものがあったの?と母は優しく問いかけた。

「ヒーローが、居た。一寸、変な」

「そう、ヒーローが居たの」

未だ幼い眸をキラキラさせて、無邪気に笑うわが子に
ヒーローショーでもあったのかしら?とこっそり首を傾げる
彼女が事実を知る術など無い。


























あれ?長くなった。えらいカタカタパソコンで文字打ってるなーと
思ったら長くなってた。一度は書いてみたかった過去の捏造(笑)
本当は跡部様オンリーの出演予定が中学一年生男子が、街を一人で
歩いているっていうのも何か寂しいといいますか、コイツ友達
居ないんじゃ・・・と憐れになるので急遽忍足さんを出してみた。
彼は動かしやすくって大好きです。私は彼は跡部様の悪友一押し。
不二リョにおける菊丸さんの存在みたいなものだと主張。



















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