home

セカンド・コンタクト









夏休みも終盤を迎えたある日跡部家には
一通のエアメールが届いた。
エアメールというよりは、寧ろ絵葉書。
アメリカ産の御馴染みのネズミのキャラクターが描かれた
その裏に拙い文字で「I'll see you」とだけ書かれている。

「おいおいおい、何時頃かくらい書けよ」

呆れたように呟いた跡部の顔は、だが微笑んでいた。









部活動に精を出した夏季休業、つまり残ったのは
日焼けした肌と課題だけだ。
文武両道を掲げる氷帝学園は勿論学生の本分である学習面に
気を抜くことを許さず、夏休みの課題は如何なる事情が
あろうともきっちり期限までに提出しなくてはならない。
跡部は勿論そんなものは夏休み前に課題が配られてから直ぐ、
本当にすぐさま片付けてしまい、後は悠々自適な生活を
送りつつ新学期の予習なども余裕を見せつつしていたわけだが
多くの生徒にとってこの夏休み終盤は追い込み期間である。
テニス部レギュラー陣とて、それは例外ではない。
寧ろ、跡部の方が例外中の例外なのだ。
あれだけの量の練習をこなしつつ、何の苦も無く
課題を片付けている辺り男の常の自身が実力にきちんと
裏付けされたものであることを物語っている。
いるわけだが。

「跡部、此処分からない」

「てっめー、少しは考えろ!」

「考えてもわかんねーものはわかんねーんだよ。
 お前と一緒に考えるな」

「跡部、咽喉渇いたC」

「先輩、此処答え合っていますか?」

「あー、めっちゃ涼しいわ。えーなぁ、快適快適。
 やっぱ、課題は跡部んちで片付けるに限るわー」

「・・・・・・・・・・・・・・・テメエら・・・」

繰り返すが、跡部以外の生徒にとって課題が片付いて
いないなんてよくある事態だ。
テニス部レギュラー陣は話し合いの結果、此処は
お互い助け合おうということになり、あわよくば跡部に
手伝わせよう(無謀だ)と、涼を取ることも兼ねて跡部の家に
お邪魔していた。
何せ、跡部の家は広い。
家というよりも、寧ろ屋敷というほうが表現として正しい。
一体どれ位の人間が住めるのかというくらい、広い。
無駄に広い。だから、少しくらいの人間が押し寄せたところで
広さに困るといったことはない。
おまけに常在しているお手伝いさんがお菓子を
出してくれたりする至れり尽くせりの環境を
みすみす見逃す手はなかった。
跡部の自室に集まるとワイワイと騒ぎつつも課題を
こなしていく。
そんなチームメイトを見つつ、これ見よがしな溜息を
吐いて跡部はそっと先程届いた葉書を見た。
差出人の名前は、Rとだけお世辞にも綺麗とは言いがたい字で
書いてある。
そういや、本名も碌に知らないな、と自嘲気味に思うと
手紙の主の姿を思い起こした。
サラリと流れる艶やかな黒髪。
意思の強そうな、アーモンドアイズ。
綺麗な、綺麗な子どもだった。
跡部と子どもが出会ったのは、数ヶ月前の話だ。
絡まれている子を助けて、それが切っ掛けで手紙のやり取り
(といっても、子どもが綴るのは今回のように酷く
 素っ気無い文章だけである。初めに来た御礼の手紙すら
 葉書状のもので、赤ペンでThank you!とだけ書かれてあった)
をするようになった。

(会いに来るって、何時だよ。大体、俺の居場所分かるのか?)

会いたい、とは思う。
もう一度あの子どもに会いたい。出来れば、傍に居たい。
あの子と過ごす日々は、限りなく退屈からかけ離れたものに
なりそうな予感がする。
そう思うのは、所謂一目惚れというやつで、何でこの俺が、と
跡部は柄にない自分の感情を僅かに持て余した。
それでも瞼に焼き付いているのは、幼い笑顔だけである。

「跡部、それ何」

不図握っていた葉書に感心を抱いたらしい岳人が、
そう聞いてきた。

「放っておいてやりー、アレ跡部の想い人からの
 エアメールやねん」

「想い人!?跡部、そんなの居たの!」

「てか、エアメール!?すっげー、金髪美女?」

「それともアジアン?」

「おまえ、本当厭味なくらいグローバルだよな・・・」

各自が思い思いの感想を述べていたとき。

ピーンポーン

玄関のチャイムが鳴り響いた。

「客か?珍しいな・・・・おい、慈郎、見て来いよ」

「跡部横暴ーっ。何で俺なわけー!?」

「お前が一番近い」

ケーキも食っただろ?
相変わらずの口調で命令されて、しかし事実なので
抗いようも無く慈郎は不満そうに部屋を出て行く。
螺旋状の木造の階段は、如何にもそれらしい絨毯がひかれて
手摺には彫刻が施してある。
階段を降りたところには、一般の家には先ず入らないであろう
シャンデリアが我が物顔で居座っている。

(厭味なくらい、金持ちっぽい・・・)

全く色々な意味で期待を裏切らない男だとある意味感心しつつ
玄関に向かう。その先で

「あの、コンニチハ?」

きょとん、と可愛らしい仕草で小首を傾げる人物を目にして
慈郎は事情を飲み込めないままつられて小首を傾げた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・コンニチハ」

「ええっと、此処、跡部さんの、おうち?」

「んー、そう、だけど」

一体何者だ、このやたらに美人な子どもは。
慈郎がいぶかしんでいると、如何やらあちらとしても同様の
状況らしい。そういえば、そうだ。跡部の家から、見知らぬ
人間が出てきたらそれは疑うだろう。

「君、だれ?跡部の知り合い?」

「知り合い、かなあ。会いにきたから、そうかも。
 アンタ、跡部さんの友達?跡部さん、呼んでくれない?」

跡部に兄弟は居ない。ということは、このやたら可愛い子どもが
呼んでいるのは、用事があるというのは跡部のことで先ず間違い
ないだろう。
しかし、此処で一抹の不安が過ぎる。
気の強そうな和風美人。小さな肢体。挑発的な目線。
アレだ。長年チームメイトなんかしていると、よく分かるが
間違いなくこれは跡部のストライクゾーンの真ん中だ。
跡部に会わせようものならば、先ず食われる。

「跡部に、会うの?駄目だよ、アイツ可愛いものに
 目が無いから君とか食われちゃうC」

「食べる?eat?俺、お菓子の類じゃないから、平気だよ」

「あー。そうじゃなくって・・・」

大人びた口調と裏腹に子どもらしい発想が可愛いな、
なんて思っていると。

「おい、慈郎。何時まで掛かってやがるんだ」

今一番危険な人物が痺れを切らせて階段を降りてきた。














「・・・・・・・・・・・・オマエ?」

「!Long time no see!
 I want to meet you again!Hero!」

流暢な英語で声をあげると、靴を脱ぎ捨てて子どもは跡部を
見つけるなり駆け出して飛びついた。
跡部は多少驚いた様子だったが、小さな身体を何の苦なく
受け止めると、わしゃわしゃとその髪の毛を撫でる。

「久しぶりだな、よく俺の家まで分かったなオマエ」

「当然、住所分かればタクシーで来られたよ。
 今、親父たちと遊びに日本に来ているんだ。
 で、アンタも夏休みって聞いたから、会いに来ちゃった!」

ちゅ、と頬にフレンチキス。
見ているほうが若干照れたが、そういえば挨拶なんだと
思い当たる。
チェリーピンクの唇から贈られるキスは羨ましいくらいだ。
すると

「跡部、何騒いでるんだ」

「せんぱーい、誰ですかその子―」

「あ、こないだの子やんか」

「えー?誰々?その子」

階上から幾つもの声が降ってくる。
そうだった、こいつらも居たんだ・・・。
甘い再会を楽しむ余韻もなく、跡部は溜息を吐いてリョーマを
自室へと招いた。










「―――――て、ことはその子がエアメールの主?」

「そうだよ、わりいか」

「おまえ、見かけに寄らずピュアやなぁ。手紙のやり取りとか
 しよったんか」

「うるせえ。黙れ」

「可愛いですねー。お人形みたいです」

「手出したらぶっ殺すぞ」

まるで見世物のようにリョーマを取り囲まれてしまって、
跡部は頗る不機嫌だった。
それと対照的にチームメイト達はリョーマに興味津々で、
物怖じしないタイプのリョーマも沢山の人間に囲まれて
それほど機嫌を損ねた様子は無い。
あの跡部が自ら手紙を書いて、やり取りしているなんてこと自体
珍しいしその相手が金髪美女ならぬ年端もいかぬ
子どもであるという事実は確かに興味をそそられた。
しかも、加えてリョーマの容貌は人目を惹く。
初めは信じられなかった様子の彼等も、
これならば跡部が嵌るのも無理ないと納得できた様子である。

「オマエ、どうやって跡部と知り合ったんだ?」

可愛いものに目が無いのは、男としては当然の反応で
岳人も例に洩れず直ぐにリョーマを気に入った様子で
ケーキを切り分けてやりながらそう問いかける。

「跡部さんは、ヒーローなの」

ケーキを食しつつ、満足げに呟いた彼にその場に居た跡部と
リョーマを除く誰もがあんなヒーロー居るか!!と
心中で突っ込んだ。
跡部が、ヒーロー。
これほど似合わない組み合わせも中々無い。
寧ろ敵役の総督とかのほうが格段に似合いそうだ。

「騙されちゃあかんでー。
 コイツはヒーローを殴りそうな奴や」

「そうそう、ヒロインを攫いそうな奴だぞ」

「・・・・・・てめ・・・・」

「違うっス!俺がピンチの時助けてくれたもん」

跡部が何か言い返す前に、リョーマの方が一足早く反論した。
ピタっと。
それこそ、ピタっと言い争いは止まる。
だが、それは誰もがリョーマの言い分に
納得したからではなかった。

「・・・え、『俺』?」

「俺・・・・って・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・オマエ・・・・・」

何かちょっぴり不穏な空気が漂う。
英語ほどではないが、流暢な日本語。
まさか、間違えて覚えているわけではあるまい。
名前は、何ていうんだオマエ。
跡部が、問う。

「越前リョーマ」

決定打だった。











男にナンパされて絡まれているところを助けたわけだから、
そういう先入観があったのだ。間違えても可愛い娘に
リョーマなんて男名を付ける親が居ると考えるよりは
明らかに子どもが男子であると考える方が一般的だ。
そう言われてみれば、そう見えなくも無い。
見えなくも無いが、あんまりにも綺麗、可愛らしいという
表現が似合う外見と先入観ですっかり女子だと
思い込んでいた一同は、跡部を含めて絶句する。

「・・・・・男・・・?」

やっとの思いで口を開いた跡部に、あ、と手を打って
そういえば訂正していなかったね、とリョーマは簡単に
これを肯定した。

「・・・・・・・男やったんかー。美人さんやから、
 てっきり嬢ちゃんかと思いよった」

「この様子じゃ跡部も知らなかったみてーだし」

「あ!てことは、先輩の想い人って男子・・・・」

鳳の結論に、あっと誰もが気付く。
あの跡部の思い人が、年下、しかも男子。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−っ」

「・・・・・・はは・・・っ」

「あははははははははははははははは・・・!!」

誰かが笑い出したのを口切に誰もが笑い出す。
だって、考えてみると可笑しいじゃないか。
来るものは選ぶが、去るものは追わない主義で
恋愛相手に不自由したことが無い跡部が初めて
ピュアな手紙のやり取りなんてするほど熱心に執着した相手が、
男子だった(しかも、本人すらその事実に気付かなかった)
なんて。ネタとしては、最高の酒の肴だ。
だが、跡部は暫し考えた後ぐい、とリョーマを引き寄せると
高々と言い放った。

「問題無い」

きょとん、として跡部を見上げるリョーマを他所に
今度こそ部屋の中は凍りついた。












「だって、これだけ俺様のツボな奴を男だからって
 理由くらいで見逃すかよ。
 可愛いし、数年で滅茶苦茶美人になるぜ?」

「男でも?」

「問題無いって言ってるだろ。イケる、イケる。考えたが、
 これならちゃんとタ・・・・・・・・・・・・・・・・」

「うっわわ、ストップ!ストップです!部長!!」

「安心しろよ、せめてコイツが中学入るくらいまでは
 俺だって待ってやる」

「短っ!何それ、犯罪じゃん!変わらないじゃん!!」

「跡部鬼畜!」

「何とでも言え。なあ、リョーマ」

「うん?」

グラスに注がれたファンタを飲みながら、
目の前でそんな会話が繰り広げられているとは
夢にも思わずリョーマは跡部を見た。

「俺はオマエのヒーローだよな」

「うん」

「俺がオマエに以前言った言葉覚えているか?
 オマエがピンチになったら何処にだって助けにいってやるから
 俺以外の奴のモノになるなよ。俺のモノになれよ」

歯の浮きそうな台詞を、寸分の隙もなく言い放つ。
こんな台詞を彼のファンが言われたら、
先ず間違いなく卒倒するだろう台詞と眼差し。
リョーマはぱちぱち、と零れそうな大きな眸を瞬かせて
それから

「OK.アンタがピンチになったら、俺が助けにきてあげる」

と花のような笑みで言った。
それを見るや否や、にやり、と性質の悪い笑みを
(間違ってもヒーローはこんな笑みをしたりしないだろう)
だけれども美しく浮かべた跡部は公衆の面前であるにも
関わらず、リョーマに接吻ける。
所謂挨拶の類ではない。
情欲を多分に含んだ、紛れも無い恋人同士の口付けだ。

「「あ―――――――――――――――!?」」

目撃者は勿論叫んだが、何の悪びれも無く唇を舐めると

「んだよ、キスくらいでギャアギャア言うなみっともない。
 コイツが男だから、テメエら興味ないだろ」

フン、と跡部は言い捨てる。

「誰が興味無いゆうた!そんだけ可愛かったら関係ないわ」

「ズルイです、部長」

「てか、跡部未だ手を出さないって言ったじゃん」

「キスだけだろうが」

「充分だC!!」

ぎゃあぎゃあと言い争う面子に、だがリョーマは少し
頬を染めた。
その様子を察した忍足は、おや、と笑う。

「何や、残念やね。折角ヒーローとカップルのなれるのに
 遠距離やったら中々会えんし」

「そうでもないよ」

「へえ?」

「俺、中学からこっちに引っ越してくるから」

「・・・・・・・・その話、跡部は?」

「知らない。サプライズのほうが良いかなって」

笑う彼は間違いなく潜在的な小悪魔だ。
これじゃあ何気に振り回されるのは跡部の方かも
知れないとこっそり思う。
が、彼からしてみれば惚れた相手に振り回されるなら
本望だろう。

(何や、嵐の予感・・・・・・)

それも、特大の。
考えた途端、顔が緩んでしまったのは仕方が無い。
詰まるところ、自分も騒がしいのは嫌いじゃないのだ
と思い当たる。
これから、暫く騒がしい日々は続き退屈とは
無縁の生活が待っていそうだ。


















ファーストラブの続きです。続きを書く気は無かったのですが、
割と続きを期待された方が多かったようですので(笑)
これにて、ホントに終わり。過去だから捏造できたので、これ以上は
限界です。私の想像力が(笑)跡リョっていうか、アイドル。
あー、もうこいつら書きやすいなぁ。愛すべき存在だw
因みに跡部様が中二くらいです。何気にずうっと手紙とか
やり取りしていたら萌え☆



















home







Copyright (c) 2005 17'c. All rights reserved.












SEO [PR]  冷え対策 再就職支援 わけあり商品 無料レンタルサーバー ブログ SEO