裸の身体に接吻けして、そっと羽根布団を掛けてやる。 さらさらと流れる絹糸のような黒髪は、窓越しに映る月の光に 照らされて天使の輪を作る。綺麗だ、綺麗だと思っていた横顔は こうして目を伏せていると作り物めいた美しさであることが 今更ながら分かった。 月のなだらかに丸く円周率を描く様に嗚呼、そう言えば今日は 中秋の名月だと思い当たる。 月と恋人、相俟って思い出されたのは日本人ならきっと誰もが 一度は耳にしたことがあるであろう物語だった。 「先輩・・・?」 「ああ、起きたの?起こしちゃった?」 「ううん。・・・・・・・・・・・・・何見てるの」 「月だよー。月。越前があんまりに綺麗だったから、 かぐや姫みたいに還ってしまったら如何しようって思ったの」 笑って見せると、それが何時もの冗談だと思ったのかリョーマは 呆れた面持ちで溜息を吐いた。 「俺が何処か行くとでも?」 (―――――かぐや姫泣く泣く言ふ、 『さきざきも申さむと思ひしかども、 かならず心惑ひし給はんものぞと思ひて、 いまゝで過し侍りつるなり。 さのみやはとて、うち出で侍りぬるぞ。 おのが身はこの国の人にもあらず。月の都の人なり』) 「先輩?」 「そんなこと、させないよ。 月に君が浚われるというのならば、月なんて要らない。 撃ち落して粉々に砕いてしまう」 でしょう?と紡ぐ彼の眸が少しも笑っていないので、リョーマは また溜息を吐いた。 「お生憎様、俺は未だ狂っていないから」 「如何いうこと?」 「かぐや姫って、単に気が触れた女の人だったって話も 俺聞いたことがあるもん。 月は魔物だから、連夜観ていたら気が触れるっていう話。 ルナティックって言葉も、由来は月でしょ」 「博識だね」 パチパチと手を打って見せると、ふざけた様子で交わす不二と逆に リョーマは酷く真摯な目をして向き合った。 「だから月になんて興味ないし、アンタの傍を離れる気もない」 寝台の上で、二人無防備な姿を曝け出して向き合いこんなことを 話すなんて酔狂だと思ったが、そんな台詞を言った彼が一寸中々 無いくらい愛おしかったので構わず抱き寄せた。 腕の中にすっぽりと埋もれてしまう小さな身体は花のようで、 若しかしたらこの世のものなんかではないかも知れないけれど、 此処を去ると、自分の許を去ると彼が言うのならば月なんて要らない。 撃ち落して、粉々に砕いて、もう空に焦がれずにすむように。 都会の窓から見上げる月は、空気が濁っている所為か微かに赤みを 帯びている。 狂わされるのは、月にじゃない。 今日は中秋の名月だそうで。月が凄く綺麗ですね。 ルナティックとかあの辺りの説明は実際私が以前授業を受けた先生が 仰っていたので参考にしました。 聞いたとき何とも言えず感動しました。成る程!!って(笑) |
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