もともと芸術分野とかそういったものとは無縁だった僕が、何の因果か 気が向いたときに書き溜めていた油絵をとあるコンクールに出したことが そもそもの始まりだった。何度だって言うがもともと芸術分野とか そういったものとは無縁だったので大してデッサンだか美術史だか 学んだ記憶はない。精精学生時代の美術の授業くらいだ。 けれど、何度も何度も重ねては色を加えそしていっそのこと混沌と なっていく油絵は好きだった。 名前が知られるようになってきて、個人名で展覧会も開けるように なってきて、一端の絵描きを名乗られるようになった頃ある日の話だ。 僕の借りている家は古い洋館だった。 幽霊が出るという噂が昔からあって、それで買い手も借り手も いないところにそういう非科学的なものを昔から一切信じなかった僕が 借りたという経緯であり、普通なら絵描きは家を汚しそうだと 敬遠されそうなところを、大家は満面の笑みで貸してくれた。 幽霊は未だ見たことがないが、物騒ではあった。 というのは、一度空き巣には遭ったことがある。 留守中に無用心にも開けられた窓から入ったらしい (僕の不注意ではなく、古さ故に立付けが悪くなっていた窓だ)空き巣は 幸いにして捕まり部屋には金目のものなんて無かったから良かったが いい加減鍵を変えてくださいよと警察からも厳重に小言を喰らった。 そう、幽霊は未だ見たこと無かった。 あの日まで。 「お帰り」 部屋には電気が点いている。画家にしては若いデビューだった僕は勿論 まだ独身で妻子などいるはずも無く、残念なことに此処最近 付き合っていた子とも別れた。そんな僕の帰宅に合わせて声が掛かる 方向を見れば、先日買ったばかりのアンティークのソファーに我が物顔で 寝転んで白いシャツにジーンズといったラフな服装の少年がひとり 笑みを浮かべて此方を見ている。 「只今」 お土産、と帰路に着く途中で買ったお菓子を広げると途端に笑みが深まった。 年相応の反応に少し笑うが、よく考えてみれば彼の年をはっきりとは 知らない。見た感じだと十二くらいだろうか。 時折大人びた眼差しをする代わりに、あどけない表情も零す。 彼に関して僕が知っていることといえば、名前と、それから。 「リョーマ」 「何?周助」 「ゴーストも、お菓子食べるの?」 「当たり前じゃん。お供えってあるでしょ?」 彼が自称ゴーストであるというくらい。 ある日帰ったら部屋に見知らぬ少年がいて自らをゴーストと 名乗ったときは流石に此処のところ根詰めて仕事をしすぎた後悔とか、 警察を呼んだほうが良いのだろうかとか見当違いのことも思ったものだが 警察にゴーストと名乗る子どもがいますと言って笑われるのはきっと 僕だろうし、おまけに彼の外見じゃ此方が誘拐犯とでも間違われかねない。 (何せ彼は美少年、と分類される子どもで此方は曰くつきの屋敷を 借りている変人だ) 相手が子どもということもあり、もし何かあっても力じゃ僕が勝つと 判断して飽きれば出て行くだろうと暢気なことを思った。 今思えば矢張り相当に疲れていたのかも知れない。 僕の想像と違い、子どもは飽きることなくそれどころか僕に、この家に 徐々に慣れていき終いには昔からの同居人みたいな顔で居座る始末だ。 屋敷に不釣合いなテレビをつけても、新聞を開いても今のところ 家出人や捜索願が出された様子はなくひょっとするとひょっとして 本当に幽霊なのかなんて考えすら、この非科学的なものを一切信じない 僕が考えるようになってきた。 リョーマは、俺はゴーストだっての一点張りだ。 料理は食べる、好物は日本食、テレビも見れば、話もするし、勿論 透けてみえることなんて無い彼がゴーストというのは俄かに信じがたいが じゃあ今までアンタは他のゴーストを見たことがあるの?と あの大きな猫の眸で尋ねられればぐうの音も出ない。 彼は聡い子どもだった。 此方が思う以上に、此方の気配を読み、それに沿った行動をする。 一見気ままに思える行動にも実はきちんとした裏づけがあり、僕が 彼の存在を不快に思うような暴挙は未だかつて一度たりともしたことが ないのが何よりの証拠だ。 ルームシェアのようなものだ、と思えばもともと侘しい一人暮らしだ。 ゴーストだろうが何だろうが話し相手に困らないのは良い。 それに、 「周助」 「何?」 「・・・・・しよ?」 桜貝の爪先がシャツの釦を外していく。それを外しきるよりも前に 今度はタイトストレートの洗いざらしのジーンズが床に崩れ落ちる。 ソファーに腰掛けた僕の上に、細やかな肌理の肌が曝されてすっかり 慣れた仕草で手を這わせた。 ―――――それに、ゴーストの誘いはとても魅惑的である。 こういうのってネクロフィリアのひとつに当たるのだろうか、 それより根本的にペドファイルってやつだろうか。 彼は幼児、ではないが。 下らないことを考える。 ゴーストは、いつ目覚めたのか知らないがシャツを一枚羽織ると、 部屋の隅に置かれた即席のアトリエで完成間際の作品を眺めていた。 既に暗くなった部屋に、白いシャツから美しい曲線を描いて伸びた四肢に うっかり見惚れそうになる。 「俺、アンタの絵を見るの好き」 「ゴーストでも、絵を見ることなんてあるの?」 「それくらいの娯楽なきゃ、ゴーストなんてやってられないよ」 言って悪戯っぽく笑った。 先程までの娼婦さながらの姿から一転して、無邪気な子どもにしか見えない 姿に正直少し戸惑って少し情欲を深める。 「只管の深い青、深い赤、全く逆の性質を持っているのにそれでいて一つだ。 終わりの夕暮れのようでもあるし、始まりの海みたいでもあるし、 全てを内包していて、何より空虚で、俺はそんなアンタがどんな人なのか ずっと見てみたかったんだよ」 「ねえ、リョーマ。君は僕以外の人に見えないの?」 「さあ?見えるかも知れないし、見えないかも知れないし。 ・・・アンタ以外の人に見られたら、消えてしまうかも知れないし」 「君は本当は誰なの?」 「言ったでしょ?俺は、ただのアンタのファンなゴースト。 俺の本当の体は先の戦争で既に朽ち果てて冷たい土の下に ひっそりと葬られているの」 芝居がかった口調で言うと、クスクスと鈴を転がしたように笑って一回転、 それから腕の中にすっぽり納まった。電燈の無い室内で、月の光だけを 浴びて輝く彼の肌は青白くそうしていると確かにゴーストだと思わなくも無い。 「じゃあ、誰にも見せない。君は僕だけのものだ」 「・・・・・・・初めて聞いた、アンタからそんなこと」 「そう?嬉しくない?」 「わけないじゃん」 彼がゴーストだって、ゴーストじゃなくたって、そんなの些細な、 些細な問題だ。お互いぎゅっと抱きしめあうと僕たちはもう一度 ソファーの上にダイブして彼が僕の頬にキスを落とす間に、僕は 彼のシャツの中に手を突っ込む。 彼が何者だろうと、そんなの些細な問題だ。 取り憑かれるならそれも良い。 ゴーストに殺される、まるで甘美な心中みたいに。 THE GHOST IN MY ROOM 僕の部屋にはゴーストがいる。 Steal your love!! リョーマさんがホンモノかどうかはどっちでも取れるようにしてみました。 単なる不法侵入のファンの子かも知れないし、本当に幽霊かも知れないし。 まぁこんな幽霊なら大歓迎ですが(笑) ハロウィンが近いということで。 タイトル名はラルクの曲からです。すいません。 |
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