分からない、と思う。 分からない、分からないのだ。 学校の勉強は好きじゃないけれど、答えが導き出せる だけ未だ全然マシだしテニスは勝敗が出るから良い。 でも、この問題だけはどうしようもない。 どうすれば良いのかも分からないし、どうしようもない。 「あれ?リョーマちゃん」 リョーマちゃん、等と自分をふざけた名前で呼ぶのは 一人しか居ない。常ならば睨み付けることを忘れないが 今はそれさえも忘れて、振り返る。 「・・・・・・・・・・・・・・・どうしよう」 明確な答えが欲しかった。 「心臓が、ドキドキするんっスよ」 「ふうん、それで」 「でもって、上手く喋られないしあんまり顔も見れない。 もっと沢山話したいけれど、俺とあの人じゃ違いすぎる」 「何が違うんや」 「歩いて来た路が、あんまりにも。 俺は、こんな風に人と接するのも初めてなのに あの人、モテるじゃん。・・・・何ていうの? 偏差値が、恋愛に対する」 相談に乗って貰えるとのことで、奢り(勿論ファーストフード だが)を申し出て、忍足の向かいの席にリョーマは腰掛けた。 店内に居る女子の目が、尽く自分たちに注がれているのに そういえばこの人もモテるんだよなーなんて考えている彼は、 自分の外見も相当に人目を惹いているということに未だ 気付いていない。それを面白そうに、眼鏡の奥で眺めて忍足は 笑った。何をそれ程深刻に思いつめて、と思いきや 言ってしまえば彼の持ちかけてきた相談は単なる恋愛相談だ。 単なる、と言うと語弊があるかもしれない。 それでも、本人にとっては唯一無二の重大で深刻な悩みなのだ。 だって 「相手が、跡部やもんなあ〜」 独特のイントネーションで呟くと、同意するかのように 大きな眸が瞬く。 確か、跡部の話によると彼とこの少年が付き合いだして未だ 一ヶ月にも満たない筈だ。 詳しい馴れ初めは勿体無い、だの何だのと跡部が言うので 聞かせてもらっていないが跡部の方が先に告白して めでたく交際がスタートしたらしい。 良く言えば、個性の強い。悪く言えば、我の強い二人な だけに当初は本当に大丈夫なのかと他人事ながら心配したが あの跡部が彼と付き合い出してから他の女子との浮いた噂の 一つも流されていないことからも、今回彼がどれ程真剣に リョーマと交際しているかが窺える。 それでも、不安なのだとリョーマは言うのだ。 「俺、だってあの人が思うほどいいヤツじゃないし、 可・・・可愛くなんてないしっ。どんなことをしたら 良いのかとか、どんな風に言ったら良いのかとか、 もう、全然分からないもん・・・・・・・・・・・。 跡部さんが、他の人と仲良くしてるだけでムカってくるし 俺だけにずっと構って欲しいとか思ってるし。 ―――――滅茶苦茶、自己嫌悪」 髪の毛を掻きながら、唇を尖らせてふう、と溜息を吐き ジュースを一気に飲み乾す彼は、忍足からしてみれば 滅茶苦茶、可愛い。 (あー、跡部にこの姿見せてやったらどないな反応するんやろ。 てか寧ろ跡部に勿体無いなぁ。こんな別嬪さん不安にさせる なんて、何考えとるんや) 「分からない、もうイヤになりそう。 あの人、何考えてるのか読めないし、読むのも怖いし、でも 不安になるし・・・・俺じゃ吊り合わないかな」 心なしか、アーモンドアイズが潤んでいる気がして目を細めた。 此方も、氷の大分溶けて容器の冷たくなった珈琲を一気に飲む。 「そないなこと、ないよ」 「だって・・・」 子どもを、宥めるようにゆっくりと頭を撫でてやった。 「そないなこと、ない」 「・・・・・・・・・・・・・・・だってっ」 「難しく、考えすぎやって。リョーマちゃんが思うほど、 跡部かてモテへんよ。リョーマちゃんの方が、モテるん 違う?ええやん、仮令そういう経験とか、偏差値とか アイツと違っても。未だ出発したばっかりで、 ゴールなんて全然向こうやん。二人で、歩いていきよれば そのうち凸凹なんて無くなっていくもんやって。 それに、俺から言わせたら付き合う子の経験値があんまり 高くてもイヤやわー」 「・・・そうなの?」 「そうやろ。男は、ホラ。自分色に染めたいって思っとる もんやし。遊びやないんやったら、尚更。 もっと、単純に考えてみればええよ。 君は、跡部が好きなん?」 「好き」 「なら、万事解決やない。言えばええよ。 俺しかみんといて、他の人に構わんといてーって。 そんな我が儘やったら、多分アイツ喜ぶで」 「言っても、良いの?」 「当然の、権利やん」 イエイ、とピースサインを出して笑う忍足につられて ぎこちなくだがリョーマも笑った。 「意外に、単純なのかもね」 「そうそう、割とそういうもんやって」 「・・・・・・ありがと」 「どーいたしまして。 可愛いリョーマちゃんの悩みやったらお兄さん幾らでも 聞くで〜」 一瞬きょとんとした彼は、それから常の小生意気な笑顔で また有難うと笑ったので、その方がらしくて良いと思う。 バイバイ、と手を振って駆け出す先なんて考えずとも自ずから 答えが出てくる。 恋愛において、何処がゴールかなんて分かるほど熟成した 考えなんて持っていないし未だ運命を変えるような相手とも 出会ったつもりはない。そんな忍足をしても、先程の彼との やり取りは実に微笑ましく久々に恋愛って良いなーなんて 考えさせられた。 (先ずは、相手探さないかんなー) 何気なく携帯のアドレス帳を開いてみただけで、ざっと 女子の名前が出てくる。 この子とか、結構可愛かったよなと思うと少し考えて メールを打ってみた。運命なんて、何処に転がっているのか 分かったものではない。 未だ荒い息を、肩で整える。 (簡単な、ことかも) 人目を気にせず、校門で目当ての姿を待っていると直ぐに目的の 人物は現れた。驚く跡部を無視して、彼の手をぎゅっと握る。 華奢なようでいて、しっかりと均整の取れた力強い骨格だとか それだけで心臓が脈打つ。 落ち着け、落ち着け。 顔も碌に見られないのだから、目を合わせようも無い。 ただ一つ分かっているのは、これ程惹かれているって事実だけで これ以上惹かれる人なんて多分彼以外今後現れないだろうって 予感それだけだ。それで、充分だ。 「俺、跡部さんのこと、好き。 俺しか、見ないで?・・・・・俺だけのもので、居て?」 少し震える語尾にも、目を瞑る。 途端抱き寄せられる感覚と、黄色い悲鳴だけがやけに リアルだ。 「バーカ、何当たり前のこと言ってんだ。 あー、マジ。オマエじゃなきゃ、こんな嵌らねえよ」 首筋から馨るフレグランスの馨が、やけに色めいていて 呼吸を奪われそうな恋情に支配される。 若しかしたら、思っている以上に簡単なことなのかも 知れない。 視線の先の夏の日差しは、眩しかった。 年相応に青い葛藤をさせてみたリョマさん。相談役は彼氏の親友(笑) すげえ甘い・・・。世の恋する皆さん頑張ろう。 BGMはYUKIさんで |
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