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「勝つのは、俺だ!」

威風堂々と他校生ドン引きの周囲を気にすることない
やたらに派手な、そして無駄なパフォーマンスの末、
跡部の言い放った一声に。

「…so cool…!」

しかし、うっとりと彼は呟いた。




バレンタイン・キッス


ここのところ、見慣れた一つの光景がある。
初めは物珍しかったその光景も、こうも毎日連続して見ると、
何だか見慣れてくるから不思議だ。
ここ数週間、ほぼ毎日のように氷帝学園テニスコートに姿を現わす
彼こと越前リョーマは偵察をしているわけでも、態々此処まで
嫌がらせに来ているわけでもない。
では何のために来ているかというと・・・

「お前もいい加減厭きないな」

ややゲンナリとした面持ちで、跡部が一言そう呟いた。
勿論コートには入れないため、フェンス越しに二人は向き合う形に
なっていたりする。対照的に、リョーマは跡部の姿を認めると
口元を笑みの形に歪めた。

「厭きないよ。アンタの方こそ、いい加減諦めて
 俺のモノになったら?」

けろり、と言い放つ発言に跡部の傍に居た忍足と彼の相方
岳人が堪えきれない!とばかりに声をあげて笑った。
そう、何で他校生であるリョーマが氷帝学園まで通いつめて
いるかというと、跡部に会いにだったりする。
手塚と跡部の試合の後、偶然バッタリ公園で出くわした
跡部にリョーマは少しも怖じる事無く俺と付き合って、と
告白したのは確かもう一ヶ月程前の話だ。
初め、何を言っているのか理解に苦しみどうせ何かの冗談か
子どもの厄介な気紛れだろうと高を括っていた跡部は、彼の
実行力と不屈の精神に正直驚いている。
横で笑い転げているチームメイト達も最初は微妙な反応を
示していたが、どうもリョーマのオーラに中てられたらしく
今じゃ一緒になって跡部をからかう始末だ。

「ええやん。跡部、付き合ってやれば」

「アホか!俺はノーマルだっつの!女子が良いんだよ」

「あ、ソレって差別発言っすよ」

「駄目じゃんー、跡部」

「煩え!兎も角、断るってずっと言ってるだろうが」

そう、何も返事をしていないワケじゃない。
リョーマの態度が本気らしいことを知ってから、一応考えて
それでも如何しても今まで異性としか付き合ったことが無い
(当たり前といえば当たり前だ)跡部は、矢張りオマエと付き合う
ことは出来ないと答えているのだ。きっぱりと。
だが、リョーマは―――――

「俺は、了承していない」

と口を尖らせた。

「だって、跡部さん俺が男だから付き合わないって言ってる。
 ソレって俺が嫌いってことじゃないじゃんか。
 アンタの元カノよか、絶対俺のが美人だよ。自分で言うのも
 何だけど、これでも結構モテるし?
 そんじょそこらのアンタの取り巻きの詰まらない女には
 負けない」

言って蟲惑的に笑むと、一寸上目遣いに見上げる。
自分の魅力を思い切り熟知しているから成せる技だ。
そのやり取りを面白そうに見ていた忍足が、思いついたかのように
不図リョーマに尋ねた。

「そういや、越前。越前は何で跡部が好きなん?」

テメエ何聞いてやがるんだよ、と無言で睨むが此方を見ようと
しない彼は賢い。そういえば、そうだ。確かに何故自分が
好かれているのかは聞いていない、と跡部も少し気になった。
自然リョーマに目線をやると、彼は少し考えて言葉を探る。

「テニス、強いし。美人だし。・・・・・・・・・あ、俺
 猫飼ってて、好きなんだけれど」

猫と俺と何の関係があるんだ、と更に尋ねようとした矢先

「跡部さんって、猫っぽいし」

さらり、と石化してしまうような発言を放たれた。











あれから、腹筋が痛いと言い出す位まで笑い転げた忍足と
岳人と憮然とした面持ちの明らかに機嫌が宜しくない跡部は
部活終了後の部室にいた。レギュラー以外使用することの
ない部室は、あとは権力にモノを言わせて人払いをすると
教室なんかよりは居心地が良い。
髪の毛をかきあげて、行儀悪く長い足を投げ出し椅子に座る
跡部を片手でメールを打ちながら、好かれてるじゃん、と
岳人が揶揄した。

「好かれて嬉しいか?男だぜ?」

「えー、だってアイツ男だけど可愛いじゃん」

「あ、確かに。本人いよったけどそんじょそこらの女子より
 格段に別嬪やでアレは。ちょい気が強そうやけど、そこが
 また。お人形さんみたいなカオしてはるやん。跡部好みの」

「っつーか、マジお前も面食いだけどさ。元カノよか、
 可愛いぜあれは」

勿体無いよなー、と笑う二人をギロリと睨みあげる。
そりゃ、確かにリョーマは可愛い。
美少年ではあるが、どちらかといえば美少女顔の美少年だ。
発達途中の過渡期である肢体は華奢で
テニスなんて外でやるスポーツに関わらず、肌は乳白色で
運動したあとはほんのり桜色に染まる。
大きな目はそれだけで印象深いが、長い睫毛が影を落として
殊更彼を際立たせる。
気の強そうな態度も、悪くないと跡部は思っている。
悪くない、寧ろ好みだ。・・・但し、女子ならば。
幾ら可愛くても、幾ら好みでも、幾ら言い寄られても自分と同じ
同性だという事実はちょっぴりどころか大分痛い。
そんなことも知らずにか、煽る友人に心底げんなりした。

「いいじゃん。付き合えば。駄目なら駄目で分かれりゃすむし」

「オマエのお得意パターンやんか。此間の子も続かんかったな。
 二週間やっけ」

「半月だ」

「変わらねえよ、ソレ」

跡部マジ酷い。呟く岳人にテメエだってあんまり人のこと
言えた立場かよと苦々しく吐く。

「そもそも、女ならまだしも男と付き合うのにそんな簡単に
 OK出せるかよ」

「俺ら偏見持たないから」

「そういう問題じゃねえ」

「ほんなら、どういう問題なんや―――――あ、セックス?」

「―――――ソレも、ある」

「ええやん。やってみたら」

ゲラゲラと笑う忍足の胸倉を掴んで、簡単に言うなよと流石に
声を潜めれば、だけれども何時もの飄々とした態度でするりと
かわされる。

「男だぜ?アイツは」

「そやけどさー。あんだけのルックスやったら、俺多分
 食指動くわ」

ちっこいし、可愛いし、同性って感じせえへんもん。と彼が
言うと携帯をパチンと閉じて俺もそう思うー、と岳人が話に
乗じた。

「越前なら、大丈夫そう!」

一瞬間だけ、胸の中で不穏な騒ぎを感じ取った矢先その感情の
出所を探る前に下校時のチャイムが鳴り響いた。









そして今日も今日とて、リョーマはフェンス越しに居たりする。
部活動の終了時刻は学校によってやや異なるらしく
青春学園の終了のほうがやや早い。
そこから全力で走ってきて、終了間際の五分ほどを
眺めているのが常だが、今日はテスト期間に入ったらしく
部活の延長もなく早めに練習を見に来られた、とすっかり
親しくなった岳人がリョーマと話して聞いた、と跡部に言った。

「何やったら、こっち来て見る?」

「良いの?」

「忍足!テメエ勝手なこと抜かすな!」

「ええやん。跡部のケチー」

「ケチ」

「オマエも他校生だろう。とっとと帰れ」

仕方が無しにフェンスに向かっていくと、リョーマは
舌を出して否定の体制を取る。

「偵察してんじゃないもん。跡部さんを見てるんだもん」

「余計に悪い」

「うっわ、ムカツク」

肩を竦めて言うと、リョーマは仕方ないから今日は帰ると
やけにあっさりと告げた。不審に思って跡部が眉を寄せると、
手招きをされる。どうやら、来いと言っているらしい。
コートでは部員同士の練習試合が行われていて、どうやら未だ
出番は当分先だ。判断すると、跡部はコートの外に出て
フェンスを潜りリョーマの許へ行った。

「何だよ」

「あのさ、今日バレンタインじゃん」

ああ、と跡部は同意した。そう、今日は朝から散々呼び出しやら
待ち伏せやらを食らって結構な数のチョコレートを貰った。
ご丁寧に大きな紙袋まで用意されていたくらいだ。
特に断る理由も無い、と貰ったチョコレートを思い出して
リョーマを見て不意に何か滲み出す感覚があった。

「コレ、あげる」

言って渡されたのは、丁寧にラッピングされたお菓子の包みだ。
それが何を意味するのかなんて、嫌でも分かる。
こんなことならば、と思った。
こんなことならば、貰ったチョコは受け取らなきゃ
良かったかも知れない。
―――――何故、そう思ったのだろうか。
一瞬迷って、それからだけど跡部は出しかけた手を
固く握りしめた。
これを受け取れば、即ちリョーマの好意を
受け入れることになる。

「貰えない」

渇く唇を無意識に噛んで小さく言うと、目の前の子どもは
ほんの一瞬だけ目を見開いた。
それから、いつもの調子で強い光を宿らせた目で真っ直ぐに
聞く。俺が、男だから?と。

「だから、何度も言ってるだろ」

「納得出来ない。俺だって、別にゲイっていうんじゃなくて
 アンタだから好きなんだもん!何ソレ!女の子とは簡単に
 付き合うくせに俺だと何が何でも駄目なの?」

「当たり前だろ!良いか、俺様は確かに良い男だけどな!
 女子が好きなんだよ」

それこそ威張っていう台詞じゃない気がするが、リョーマも
負けじと食らいつく。子どもの喧嘩や、と忍足はこっそり溜息を
吐いた。

「跡部景吾とあろうものが、氷帝学園の生徒会長がそんなことで
 良いんっすか!?差別じゃん!小さいこと気にしすぎなんだよ」

「大きな問題だろうが!」

「小さい!みみっちいこと言い過ぎ!そんなんじゃこれからの
 世界を背負って立てるわけないじゃん。口だけかよ!!」

バカ!とリョーマは持っていたチョコレートの箱を投げつける。
ブチっと。
何かがキレる音を聞いた気がした。







「―――――ヘエ?じゃあ、オマエが良いと思わせてみろよ?」

「・・・・・・・・え・・・・・・・・・?」

跡部を取り巻くオーラが明らかにどす黒くなったのを見て、
リョーマはしまった、と一歩後ずさった。
しまった。
やりすぎた。
跡部の目が据わっている。
美形が怒ると怖いって、本当なんだと一寸人事みたいに思いつつ
また一歩下がる。・・・・怖い。

「あ・・・・跡部サン?あの・・・・・」

「言ってくれるじゃねえか。言っておくが、俺は何一つ悪くねえぞ」

「あの・・・・ホラ。落ち着いて・・・・ねっ!
 俺も言い過ぎたし・・・出直してきま・・・・」

言うが早いか否か、踵を返して戻ろうとする手を跡部に掴まれて
阻まれる。握り締められた手首が痛くて、それ以上に明らかに
怒っている跡部が怖くてリョーマは不覚にも悲鳴をあげそうだった。
しまった。
明らかにやりすぎた。
後悔は遅すぎる。後で悔やむと書いて、後悔。
後で悔やむ時点で遅いんだよと一人で自問自答しつつ、逃げたい。

「忍足。保健室って空いてるか?」

「先生出張やろ?俺鍵もっとるで」

「じゃあ寄越して、テメエ見張ってろ」

「えーー」

「岳人!連中に試合続けさせておけ」

「ハイハイ・・っと」

「・・・・・・・あの・・・・・?」

何だか知らぬ間にどんどん進められる話についていけず
リョーマが弱弱しく尋ねると眼鏡のお兄さんが、笑って
まあ頑張ってな★と励ましにならない励ましをくれた。












「ヤダ!ってか、何?何考えてるのアンタ!!
 ギャー!お巡りさん!オマワリさん、助けてー!!」

「お前が言ったんだろうがよ。俺が好きだって」

「好きだけど、コレとソレとは違う!!」

「俺は、生憎だが女が好きなんだよ。それでも、良いんだろ?
 なら、テメエが自分が良いって思わせてみろよ。
 付き合ってやるから」

「ギャー!待って!待って!段階早いよ!無理、無理だって!
 押し倒すな―――――!!」

「煩い」

「助けて!お・・・忍足さん!!」

保健室にお姫様抱っこで抱え込まれていくリョーマに、
忍足は「うちの保健室、教室も離れとるし防音やから安心してな」
と言い放つ。それによって更にリョーマは叫んだ。

「付き合うってことは、いずれこーいうコトも含んでるんだろ?
 ならば、話は早いじゃねえか。俺は、お前の顔も性格も
 好きだが男を抱けるかまでは分からないし?
 セックスしてみようぜ?」

リョーマちゃん?と揶揄するように耳元で囁かれて挙句に
学生服に回された手が、制服の中に進入して背中を擦る。
本気だ、コイツ本気だ!!
じたばたと暴れまわるが、こうも不利な姿勢があろうか?
白い部屋の、白いベッドに落とされてリョーマは久しぶりに
絶望を味わった。

「人が来んよう見張っといたるかわ、ごゆっくりー」

バイバイ、と手を振って忍足が二人の入った扉を閉め、外から鍵を
掛けると防音の整った室内からそれでも時折何かを落とす音や
何かがぶつかる音が地面に響いた。












夕闇がすっかり闇に変わり、もう数分で部活も終わりかいなと
彼が思惑に耽っていた矢先に、扉は開かれた。
メールにも厭きて、MDでも持ってくれば良かったと後悔
していた矢先なので丁度良いタイミングだ。
中から出てきたのは跡部だけで、あれ?越前は?と聞けば
ベッドを指す。どうやら、寝ているらしい。

「初めてが跡部って、考えるとヘヴィーやな」

「・・・・・・・・・・」

「で?どないやったんや?」

どうしても下世話な想像しか出来ず、聞くと小さく跡部は
唇を動かす。

「・・・・・・・・・・かも」

「ハ?」

「・・・・マジ、嵌りそうかも・・・・・・」

うっわー。
言ってずるずると入り口に座り込む跡部の頬が赤くて、
珍しく彼が動揺しているらしいことを知る。

「・・・え?マジ?」

「・・・やべえ。だってよ、信じられるか?あれだけ人を
 煽っておいて、あれだけ無茶苦茶強気だったくせに・・・
 やべえ、凄い可愛い・・・・・」

言うと思い出したのか、跡部は俯いてしまった。
これには此方が驚いた。横でまるで純情青年のように溜息を
吐いたり頬を押さえたりしながら、うっわ・・・マジやべえ。と
もう再び跡部は呟く。可愛い、と。
――――――――――ベタ惚れやんか。
自分たちで嗾けておいて何だが、こうも予想を裏切らない展開に
なるとは思いもよらずに忍足はやや引いた。
ベタ惚れもいいとこベタ惚れだ。
これを岳人が知ったらどんな反応を示すか見物やなーと
ちょっぴり見当違いのことを考えていたりする当たり、実は
結構吃驚しているのかもしれないと思えた。
すると、隣で何やら自問自答をしていた跡部がいきなりすっくと
立ち上がり保健室の扉に手を掛ける。

「今日、もう部活には行かない」

「―――――ハア?」

「越前を、送って。・・・正式に、交際を申し込んでくる」

順序は限りなく間違いに近いが、言っていることは確かに
男らしい責任の取り方に部類されるような気がしないでもない。
惚れたのか、やっぱり。
瞬時に理解して、適当な返事を返しておく。
でないと、彼が不機嫌になるのは目に見えているからだ。
リョーマが跡部の好みのタイプかどうかなんて、一目瞭然で
傍から見れば疾うに分かりきっていたのに中々踏み切らない
友人(認めたくないが)を後押しするつもりで言った台詞が
こうも事態を展開させるとは思いもよらなかった。
よらなかったが・・・結果オーライという言葉も世の中
確かに存在する。
ものの数分で跡部はリョーマを伴って保健室から出てきた。
後片付けは?と尋ねると俺様がそんなヘマするかよ、と男は
常の俺様口調で先程までの態度は何処へやら応える。
傍らで逆に先程までの威勢は何処へやら、小さく俯いている
人影に苦笑する。子どもの頬は真っ赤だ。

「俺たち、付き合うことにしたから」

跡部が告げると、恥ずかしいのかきっ、とあの意思の強い
アーモンドアイでリョーマは跡部を睨んだが、な?と彼に
同意を求められると弱いらしく、ことり、と頷いた。
嗚呼、やっぱり可愛らしいやんか。と思う。

「だから、今日は送って帰る。後のことは頼むぜ。
 おい、行くぜ?リョーマ」

「・・・バーカ」

憮然と呟く少年の悪態は、だけど一寸だけ甘みを帯びている。
行き成りに呼び名が越前から、リョーマに変わっていて
さっきの時間に二人の間でどんな会話が交わされたのかは
割と想像に難くない。

「やるねえ、青学ルーキー」

あの、百戦錬磨の跡部を落とすなんて凄い素材だと感心せずには
居られなかった。








 


それからも、相も変わらずリョーマはやってくる。
もう日常茶飯事のことなので、とりたてて文句を言うものも
いないし或いは言わせない空気が其処にあった。
変わったことと言えば、彼が来ると部長である跡部が何故か
やたらと上機嫌でその来訪者に炭酸ジュースまで振舞う。
何故か、なんて聞くだけ野暮みたいだ。
それから二言三言交わして、跡部は部活に戻りリョーマは
貰ったジュースを片手に面白そうに試合を眺めている。
そういう風景が見られ始めたのが、バレンタイン直後だったため
跡部のファンクラブの女子の間ではまことしやかに様々な憶測が
飛び交ったがよもやそれが真実とまでは思うまい、と忍足と
岳人は溜息を吐いた。
 










バレンタイン跡リョ。跡←リョ色を前面に出したくて書いて
結局は跡部様がベタ惚れになっちゃったよ(笑)
あんまり品は宜しくないお話ですね。でも書いていて楽しかった。
このページ数を見ていただければお分かりかと。(笑)
リョーマさんはベッドの上じゃ強気になれないと思うのですが
(お前黙ってろ)だって受けだし。どうだろう。
跡部様は良い友人を持っていると思うよ。書きやすいので、
忍足さんはどうしても登場頻度が高くなる傾向にある。。。














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