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Lick lip





きっかけなんて、大したことじゃない。


「越前、唇切れてる」

「え?」

冬の乾燥した空気で、それでなくても傷つきやすい唇は
容易く割れて血を滲ませる。
同じレギュラーの後輩の唇が傷ついているのを見つけた僕は
何の気なしにそう呟いた。

「何処っすか?」

「ああ、舐めないで。余計乾燥しちゃうから、ホラ」

学生服のポケットから僕がリップクリームを取り出すと、
感 心したように彼は繁々とそれを見つめた。
それから、よく持っていましたねと言われて、ああ、
姉が居るからそういうことには煩くてねと苦笑した。
実際これも姉さんに持たされたものだ。
円筒状のケースを回転させると、固形状のクリームが
中から繰り出してくる。
此方へおいで、と呼び寄せてそれから一寸我慢してねと
その唇にリップを滑らせた。
中一の男子生徒としては、当たり前だが何の手入れも
施された気配の無い唇は、所々切れていて痛々しい。
形の良い、輪郭の整った赤い唇は見る見る間に潤いを取り戻す。

(越前って、睫毛長いんだ・・・)

不意に伏せられている瞳に興味を奪われる。
大きな眸を模るように並ぶ睫毛は、思いの外長い。
そういえば、彼は綺麗な少年だったと思う。
乳白色の肌理細かな肌、筋の通った鼻梁、そうと知覚した
途端にお世辞にも性質が良いとは言えない明らかな劣情が
忽ちに支配して、嘘だろうと思った。

こんなにどきりとするのは、今の越前の状態が、
目を伏せて上向きに此方を向いている彼が、キスを待つ
恋人のように見えるからなのだと思う。

「もう、良いよ。越前」

ぱちり、と小生意気そうな眸を開けると彼はども、と
愛想のない(もう慣れっこだ)礼を言って、俺も買おうかなーと
リップを見つめて言う。

「そうだね。薬用のがお勧めかな。今じゃ結構何処でも売ってるし」

内心慌てふためきながら、ちょっぴり不埒な想いを抱いてしまった
ことを心中で彼に詫びて、僕は全く逆方向に踵を返して
立ち去ろうとする。
そこに、止めを刺すが如く悪戯な目をした後輩が

「不二先輩、間接キスっすね!!」

と振り向き様にそう言った。









恋になる一歩手前な二人を目指して書きました。
リョーマさんは無自覚子悪魔だといいな。
珍しく不二先輩が振り回されていますね。


















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