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Loved Letter




手紙を貰うということは実際問題少なくなかった。
古風だ、と茶化す者もいるけれどそれ程親しい間柄でもないのに
メールアドレスを交換する習慣を持ち合わせていない
僕の下らない信念を、仲の良い友人は理解しているので
迂闊に他人に教えたりしない。
だから、必然的にそういった機会が増えるだけのことだ。



靴箱は教室と違って施錠の決まりが無い。
放課後になれば、日直に締め切られる教室と違って何年生でも
利用出来るし、咎めるものも居ない。
たまに呼び止められたり、教室の机の中に忍ばせてあったり、も
あるにはあったけれど往々にして利用されるのは靴箱らしい。
夕方、部活動に行く前に靴箱を開けた僕はそっと置かれたシンプルな
薄い空色の封筒に目を瞬かせた。

「おっどろいた〜朝もチェックしたばっかりじゃん不二!
 入学以来かなりの数を断ってきてるのに、まだお前に
 幻想抱く子なんて
 いるの?」

「失礼だなぁ」

言いながら、封筒を拾い上げる。
横で英二が興味深そうに覗き込んだが
(英二は専らメールアドレスを交換する派なので、こういったことは
 珍しいらしい)一応、礼儀として持ち帰ることにしている。
勿論、人に見せるなんて意地悪はしない。
それが礼儀だ。

「俺、今日日直だから先に行ってていいよん!」

言うが早いか否かもう渡り廊下を走って職員室に駆け出している
後姿を見送る。途中3年生を受け持つ他クラスの先生に注意されつつも
本気で叱られることは無い。彼はそんな憎めないキャラクターだ。
人気が途絶えた廊下で、靴を地面に下ろして何となく引っかかりを
覚えた僕はゆっくりと手紙の封を切る。
シールも何も貼られていない。
糊で軽く止めた程度の封は、すぐに破かれて中からは同じ空色の便箋が
出てきた。
やっぱり、シンプル。
ボールペンで綴られたのは、たった一言で差出人の名前すらなかった。

『好きです』

4文字。
(最短記録だなぁ・・・・)
普通、もっと切々と書き綴られているものが常なのに、
下書きすらしたと思えないそれだけの文字。
シンプルな便箋にシンプルな想い。
ある意味感心してしまったが、差出人が分からない以上返事のしようが
ないし、おまけに好きだからどうしたい、だとかそういった
肝心なことがこの手紙には書かれていない。
付き合ってほしい、という言及も避けているようでただ
只管に溜めきれない想いを吐き出しただけのような
シンプルだからこそ重みのある文章。
どういう心算なのだろう、と思って便箋を封筒に戻す。

(あの子が、書きそうな手紙)

本来の差出人には申し訳ないけれど、何故か思い出されたのは後輩の、
しかも同性の、越前のことだった。












「越前って、本当にテニスが好きなんだね」

嬉々として練習をする彼に一度だけ問うたことがある。

「好き」

本当に何の躊躇いもなく、真っ直ぐに応えられて少しだけ驚いた。
普通、何らかのいい訳なり説明なりを皆付加してくるのに。
そういえば、この子は帰国子女なんだっけと思いだす。
越前の言葉には、僕たちが好んで使うような曖昧さがない。
悪く言えばぶっきらぼうと捉えられても仕方が無いし、よく言えば
素直だ。裏表の無い言葉は、偶に不意打ちのようにドキリと心臓を
掴まれる。知っているから。この子は嘘を吐かないっていうこと。

「先輩のテニスも、好きっスよ。俺」

ドキリ、とさせられた典型的な言葉に、一瞬彼を見ると悪戯な視線で
笑った。
まるで、自分が好きだといわれているような錯覚を抱いたのは、
他人の言葉で動揺したのはあれがきっと最初だ。









好きです。という手紙の言葉を反芻する。
恐らくは僕はこの気持ちに応えられない。
相手もそれを分かっているかのような書き口に、悪いと思うと同時に
微かな好意を抱いた。押し付けられない愛情。
ただ、静かに、恋情を抱く気持ち。
ただ、誰かを、愛おしむ気持ち。
手紙をくれた子に申し訳なく思いながら、やっぱり髣髴とさせられた
のは後輩のハッキリとした虚像で、静かに、静かにそれを想う。

(僕も、彼のテニスが好きだ)

荒削りで、決まったスタイルがなくてカレイドスコープのように
変化するキラキラと移り変わる。
見ていて飽きない。魅せられる。
そう、本人の性質をそのまま投影しているようだ。
恐らくは僕はこの気持ちに応えられない。
知っているから、分かっているから、僕も味わっているから。
それを文字にするのは刻み付けるに勇気が要る。認めてしまうには。
手紙の主を少しだけ羨ましく思った。
僕は今の関係を崩すリスクをとれない。
大切だから。
壊れるのが怖いくらいに、大切に思っているから。
ただ、静かに、恋情を抱く気持ち。
ただ、誰かを、愛おしむ気持ち。

















青春系で。実はこのレターもリョマさんが書いたのだったら
面白いよな。





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