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泣かないで、ミスター




部活動も終わり、シャワーで一汗流して新しいタオルで拭えば
スッキリした心地が気持ち良い。
冷蔵庫に冷やされたスポーツドリンクを各々選んで、レギュラー達の
溜り場と化している氷帝学園部室では、色々な話に花が咲く。
実力主義と思われているけれど、別段部員同士仲が悪いと
いうわけではない。
曲者揃いではあるけれど、何故だか妙に気が合ってつるんでいたり、
仲は寧ろ良いほうなのではないだろうか。

「そうだ、跡部今度英語のノート貸して〜」

「あ、俺数学」

「てめえら、自分で取れよ」

「だって、跡部のノートって意外に綺麗で分りやすいC」

和気藹々と皆が話しているそのときだった。
ばったーん。
凄まじい音を上げて、部室の戸が開け放たれて。

「跡部さん!!居る!?」

こめかみに怒りマークを浮かべたリョーマが、ごごごごごご、と
背景で音が出そうな勢いで部室に乗り込んできたのは。










「ええええ・越前!?」

その勢いに岳人が呑まれ、思わず後ずさる。ギロリ、と睨むと
ずかずかと静止を振り切って部室内に入ってきた。

「ちょっ・・・どしたんや、越前」

「退いて、俺は跡部さんに話があるの!」

「喧嘩!?喧嘩なの、あとべー」

「おい、待てよ」

宍戸がリョーマの肩を掴もうとするが、

「退けって言ってるだろ」

思わぬ迫力でたじろいだ。―――――――――怒っている、
何が原因かは分らないけれど、とてつもなく怒っていることだけは確かだ。

「あん?俺が何かしたのかよ」

怪訝そうに眉を寄せて首を傾げる跡部のところにずんずんと
歩み寄って、リョーマはがっと彼のジャージの首元を掴んで
己の元へ引き寄せた。
ヤバイ、これは喧嘩になる。
今まで迫力に呑まれていた一同も流石にそう悟って、何が何だか分らない
けれど、越前!と止めようとした。
止めようとした矢先だった。

「俺をこんな身体にした責任とれよ!!」

うわあん。
とんでもない爆弾発言を叫ぶなり、少年が号泣し始めたのは。










瞬間の一同の気持ちを表すのならば言葉よりもたった一言。
ぎゃー!!だった。
ぎゃー!!??である。
忽ちに部室は阿鼻叫喚絵図となってしまった。

「おまっ・・・・跡部!!何してんだ!!??」

「うわああああ、越前が!越前が汚されたっ」

「他校の下級生、しかも男の子に手を出すなってあれ程
 言いましたよね!?」

わんわん泣き喚く子どもを前に誰もが無力だ。

「越前、子ども出来たの!?」

そんな中慈郎が放った発言に思わず跡部は噴いた。

「出来るか!!テメエ、こいつが男だってのは俺が一番知ってる!
 それに俺はちゃんと・・・むごっ」

ちゃんと、何なのか。
それを問う前に跡部の口はリョーマの手によって遮られた。

「余計なこと言うな!」

「大体お前が悪いんだろ、何いきなり人を罵倒して泣いたり・・・」

「・・・・・・うっ、あ・・・・・・」

じわわわん。
大きな瞳が潤んでいくのを見て跡部は慌てた。

「うわ!泣くな馬鹿!違う、馬鹿じゃねえ!だから泣くなって!!」

―――――どうにも、彼の涙には誰もが弱いらしい。
跡部のテンパっている姿なんて、どんな試合でも見たことが無いものを
見ている間にもえっえっ、と子どもはまた涙を流し始める。
弱った。








冷蔵庫にはスポーツドリンクや清涼飲料水、ミネラルウォーターは
幾つか種類が入っているものの、基本的にジュースの類は
入っていない。
なので、日吉が近くの自販機まで命令を受けて足を運び
分からなかったので、とりあえずあるだけ全部のファンタの種類を
買い占めてみた。
それらをタオルと一緒に手渡すと、少しは落ち着いたのかしゃっくりを
あげながらもリョーマは缶を開ける。
泣き止んだらしい様子に誰もがホッと胸を撫で下ろした。
男は女子どもの涙に弱い生き物なのだ。
それが可愛い子となれば特に。

「ちょっとは落ち着いたん?」

「・・・・・・・うん、ありがと・・・・・」

「てか、どうしたんだよ。お前」

「理由くらい聞かせてな」

岳人と忍足の言葉に未だ困った顔で憮然としている跡部をちらりと
横目で見やると、うん、とリョーマは頷いた。
以下彼の話である。

「・・・・・・・・こないだ部活の先輩と遊んだんだけど、まあ別に
 することも無いからビデオ借りるか〜って話になったんだよね」

「うん、まあありがちだよな」

「んで、最初は新作のアクションとか見てたんだけど。悪乗りで
 アダルトビデオ見るとかいう流れになって見せられたんだけれど」

「あー、ありがちありがち!そういうお年頃だもんな俺ら」

「・・・・・・・・・・・、の」

「え?」

「―――――っ、だからっ、反応できなかったの!!俺は」

「・・・・・・・・・・・・・・え・・・?」

顔を染めて言ってリョーマは跡部を睨んだ。
反応、反応ってまさか。
嫌な予感が頭を掠めると、跡部もそれが分ったのか目を見開いて
リョーマを見た。

「反応って・・・・越前」

「女の裸を見ても興奮しなかった」

ワントーン低い声で恨みがましそうに言った。
うわあ、あちゃあ、と周囲の反応は様々だが皆一様に
気の毒がっている様子は分かる。
それが何で跡部と繋がるのか、なんて聞くのは野暮だった。
寧ろ怖くて聞けない。それが何を意味するのかなんてちょっと考えれば
簡単に推理が出来る。

「男として凄い屈辱なんだけど!!」

「あー・・・まあそりゃそうだろうな」

「・・・・気の毒に」

「―――――越前、可哀想」

「いいじゃねーか、女より俺のが良いってお前の身体が分ってるって
 ことだろうが」

フン、と不謙遜に言い放つ男にリョーマはぴきり、と固まった。

「アンタのせいじゃんか!俺は至極真っ当な性癖を持っていたのに
 ありえない!!ありえない!!アンタが手を出すから・・・・っ」

「手を出すから、なんだ?あ?」

「っ!?」

する、と腰に回された手に傍目にも分かるくらい反応してしまった。
身じろいだ身体に悪戯を仕掛けた本人が艶やかに笑むのが分かる、
しまった。思った時には時既に遅しってやつだ。

「―――――今日は解散。部長命令、さっさと部室を空けること」

「跡部横暴!」

「るせえ」

「ちゃんとノート貸せよ〜」

「ほな、気つけて」

「じゃあ、失礼します」

「では」

「またな」

「ちょっ・・・・・・・・っと!!」

待てよ!
叫ぶより前に人影はなく、部室にとうとう二人きりになってしまった。
触れる指先から侵食されて、力が抜ける。

「あ・・・・・っ」

「ちゃんと反応してるじゃねえか」

揶揄するように言われても、反論できない。
嘘みたいに高鳴る心臓と比例して昂ぶる身体は確実に熱を持っていて、
触れられることを望んでいる。
嘘だ、信じたくないけれど。
ビデオの映像であんなに鮮明、肉感的に、そして甘い声で啼かれても
醒めた目で見ていたのにたった今意地悪そうに囁く声だけでも
こんなにゾクゾクする。

「ゃ、だ・・・・」

もうやだ。
何が嫌かってこんなにこの人に溺れている自分じゃないだろうか。
他の人間なんて意味が無い自分じゃないだろうか。
徐々に思考が奪われてきて、浚われてしまって、
あ、やっぱり泣けてくる。
落ちかけた涙を乱暴に拭いつつ、跡部は少しだけ
困った顔をして溜め息を一つ落とした。

「責任は取らせて貰うぜ?」












「結局さーあいつら如何なんだ」

宍戸の疑問に、忍足がアホやな〜と返した。

「越前が責任取れってゆうてたやろ。責任、やで。責任」

「結局僕たち惚気られたってことですか」

「まあ、そんなとこじゃない?」













思いついた勢いで書いてみました。
おかげでかなり即行で仕上がった作品。あれ?凄くラブラブじゃない?
みたいな。リョマさんが泣き虫って珍しいかも。
タイトルは好きな漫画家さんのお話よりお借りしてみた。すいません。









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