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ナイトメアシナリオ




※注
こちらは黒執事の設定パロディーとなっております。
黒執事未読の方にはかなりのネタバレ要素を含みますので
ご注意ください。








◆In the morning◆

霧深く花煙る倫敦の郊外、閑静な住宅地から深い森を抜けた拓けた地に
薔薇の庭園に囲まれた建物がある。

「おや?」

主人の部屋を訪れた執事は部屋の前まで来て足を止めた。
すらりと均整のとれた肢体に伝統の燕尾服がよく調和する。
この国ではさして珍しくない栗色の髪の毛に、紫がかった青色の瞳、
しかし並外れて整った容貌が彼を非凡な存在にした。
薄く笑うと、部屋の扉をノックして開く。

「珍しいですね、ご主人様がご自分で目を覚まされるなんて」

「俺ももう子どもじゃないからね」

シルクの夜間着に身を包んだ、麗しい青年が『ご主人様』と呼んだのは
未だ幼い、だが美しい子どもだった。
将来を思わせる美貌、漆黒の髪色と瞳の色は東洋のもののようでありながら
陶磁器のような肌の白さや長い睫毛が影を落とす大きな瞳は国籍も性別も
曖昧なものにしてしまう。
何処か儚げな翳りを帯びて見える美しさは、この年頃の少年にしては
表情が少ないということに加えて彼の右の目を覆う黒い眼帯にあった。
かといって、それで以て彼の美しさが損なわれるかと言えばそうではなく
寧ろミステリアスな雰囲気を纏って一層その印象を濃く人心に刻みつける。

「そういうことは一人で着替えも何もかも出来るようになってから
 仰ってくださいね」

縫製のしっかりとした釦を一つ、また一つと取り除いていくと毎朝のことで
最早慣れているのか大人しく為すがままに手を伸べて脱がせて貰う。
白いブラウスを代わりに羽織らされて、今度は逆に釦を留めていくと
胸元のリボン状のタイをキュッと結んだ。

「座ってください」

「ん」

ズボンも同様に替えると、靴下を履かせる。サイズの些か小さな革靴の
紐を結わえると当然のごとく差し出されたステッキを握り立ち上がる姿は
威風堂々たるものだった。

「いくよ、シュースケ」

「はい、リョーマ様」

彼こそがエトゥーセン家十三代目当主、リョーマ・エトゥーセンである。













アールグレイの紅茶はシャングリラのもの、スコーンはたっぷりの新鮮な
蜂蜜と苺ジャムとバター、それに生クリームが添えられている。

「如何です?此方のジャムは農園で朝獲れた苺をそのままコックが
 ジャムに煮詰めたものですので新鮮ですよ」

「うん、まあまあだ」

「嗚呼、ほらリョーマ様。此方も新鮮なミルクです。残さないように」

「・・・・・・俺、ミルク嫌い」

「いけません。だから背が伸びないんですよ」

執事に痛いところを突かれたのか、リョーマが眉を顰めると対照的に
彼は微笑み「これは失礼しました」と慇懃に振舞う。
(だが世の中慇懃無礼という言葉も確かに存在する)

「俺に逆らうの」

「いいえ、僕はあくまで執事ですからエトゥーセン家の跡取りとして
 一人の紳士として相応しくリョーマ様をご指導させて頂くだけです。
 ・・・・・・・・・・でも、そうですね。如何しても嫌と仰るなら」

う〜ん・・・と暫く思い悩む仕草を見せて、その後何かを突然閃いたかの
ように鼓を打った。

「僭越ながら、この僕が口移しで・・・」

「自分で飲む!!」

グラスを奪うと、一気にミルクを煽って噎せた。
口元を拭ってくれる執事を睨みつけることも忘れない。

「シュースケ」

「何でしょう」

「以前此処へ来たとき従姉弟のナナコ姉さんが薔薇を気に入っていた。
 大きな花束にして届けてくれない?」

「――――――分かりました」

「頼んだよ。あんたなら出来るでしょ」








◆In the afternoon◆

さて、と庭に出た執事が薔薇を眺めているとちょうど庭師の桃城が
通りかかった。

「何やってんスか?」

「―――――ご主人様に薔薇の花束を作るように頼まれたんでね。
 見繕いに来たんだけれど」

その言葉に桃城はええっ!?と声をあげる。

「薔薇の花は先日の雨で咲いているものは全て腐ってしまったから、
 俺が切り落としたんですよ・・・今あるのは、小さい蕾ばかりで
 花束なんて。買ってきましょうか?」

おずおずとした進言にも首を振る。

「ううん。リョーマ様は此処の薔薇を所望なんだ。
 とりあえず、蕾でいいから切ってくれる?」

「はい!」

駆け出していく青年を見送りつつ、先程の主人の台詞が蘇る。

『アンタなら出来るでしょ』

青空を見上げて、青年は艶やかに笑んだ。

「やれやれ、困ったお方だ」












◆At night◆

失礼します、とお辞儀をすると腕を捲った。
常の燕尾服の上着は脱いで、ズボンだけそのままだ。
湯船に浸かるリョーマはそれを見て動じるでもなく、身体を傾けた。
香油を溶かした石鹸は、上流階級にしか許されぬ嗜好品のひとつとして
名乗りを上げている。それをふんだんに泡立てたタオルで、背中を流す。

「ナナコ様には、リョーマ様のお名前で薔薇をお送りしました」

「ふうん、出来たの。詰まらない」

「エトゥーセン家の執事たるものこれしきのことが出来なくて如何します」

貴婦人の好みそうな柔らかい笑みを崩さない男をつまらなそうに唇を尖らせて
リョーマは眺める。失礼しますよ、と両手が頬に添えられて眼帯が解かれた。

「・・・・・痛みますか。今でも」

フン、と少年はそっぽを向く。

「下らない。これしきのこと平気だ。
 俺はもっと、もっと苦痛を味わってきたしこれからも味わう宿命に
 あるのだから。・・・・・・そうでしょ」

「リョーマ様・・・・」

するり、と指先まで作り物めいて美しい手が輪郭を辿る。
くすぐったさに目を瞑ると、忽ちに薄い薔薇の香りがした。
ハラハラと乳白色に染まった浴槽に落とされるのは何時の間に用意した
のか赤い薔薇のまだ乾いてもいない花弁。
リョーマに降りかけるように掌いっぱいのそれらを落としていく執事の
瞳に笑みは無く、ぞっとするほど鋭利なナイフのような視線とぶつかる。

「・・・・矢張り、ご主人様には赤が似合いますね。
 殊、ピジョンブラッドのような深い赤が。
 貴方の小さな身体に苦痛と罪悪と、宝石のような血液が流れていると
 思うと実に楽しい」

「悪趣味だ・・・アンタ」

「そんなことないですよ、マイロード。
 貴方の美しさはこの薔薇のよう」

差し出された一本の薔薇を睨むと、それを見せ付けるように翻す。

「棘はか弱き抵抗だ。美しいものを散らせたいと思うものは多い、
 僕のようにね」

ぐしゃり、と枝ごとそれを握りつぶす彼にリョーマは毅然と言いはなつ。

「俺がアンタの主人だ。契約を忘れたのか」

血液を映したような赤い色、漆黒の夜の色をした片方の瞳と異なる色の
隠されていた瞳には魔方陣の模様が浮かび上がる。
それこそが、二人を繋ぐ証であり、契約であり、鎖であり、全て。

「いいえ、まさか。
 犠牲と、享楽を引き換えに僕は生涯貴方の忠実な僕、如何なるものからも
 護りますよマイロード。

 僕は、悪魔で執事ですから」











◆At midnight◆

エトゥーセン家は、この辺りの領主でありこの国を統べる女王陛下にも
面識がある昔からの一族だ。加えてリョーマは、自身で新しい玩具
ブランドを立ち上げて今やエトゥーセンの名をこの国で知らぬ者は
少ないだろう。
尤もその最高実力者たる彼が弱冠十二歳の少年だと思う者は殆ど居ないに
等しいだろうけれども。
この日も取引先との対話や、街頭に赴いての視察等で疲れ果てたリョーマは
あっという間に眠りについてしまった。子どもには広すぎる部屋の照明を
落とし、本を読んで聞かせていた執事もその規則正しい寝息に耳を傾け、
一息吐いて立ち去ろうとすると不意にそれが阻止される。
抵抗を感じてみれば、リョーマの指がしっかりと袖を握っているのに
苦笑した。

「ダメですよ・・・・・ダメだよ、リョーマ。
 悪魔は人間よりずっと気紛れで性質が悪い。
 僕に気を許したら・・・・・・・・・・」

魂を奪う前に、柔らかい身を裂いて、骨まで味わって食べてしまうよ?
囁く声にも少年が目を覚ます様子は無い。
如何やら相当深く寝入っているようだ。

「本当に、貴方は可愛いね」

瞼にそっと接吻ける。
心なしか熱い、其処にも心臓があるかのように血液の流れる音。
月明かりに伸びた影が歪に歪んでいた。
















予告どおり黒執事パロ。
パロなのに別物になってしまったような。不二先輩が、敬語だと
「誰!?」ってなりますね。黒執事に萌えた結果がこれです。
っていうか、普通にセバシエを書けば良かったんじゃないかとか言わない。
名前の決め方が安直過ぎてすいません。






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Owner:momoya 2007 Not Take Free












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