父親と母親は貿易会社とのパーティーだか何だか如何しても 外せない会合があるらしく、一週間前から姿を見ていない。 年末と正月三箇日くらいは普段屋敷に従事する人々にも 休みを与えなければと断り、それからやけにガランとした 屋敷で溜息一つ、跡部はソファーに座ると超大型薄型テレビの チャンネルを回した。 屋敷は使用人の手によって隅から隅まで、それこそ塵一つ 無いくらいにまで磨き上げられているから、不快だということは ないが正しく自分以外の誰の所在も伝わらない、まるで生きた 心地がしなかった。 知らぬ間に地球は滅亡への道を歩んでいて、若しかすると 自分ひとり残して誰もが滅びてしまったのかも知れない、なんて らしくないセンチメンタルな空想を抱いて、それをすぐさま 払拭するように跡部は自嘲気味な笑みを浮かべた。 チームメイトでも呼ぶか、否、彼等も家族水入らずで 過ごしている筈だ。 テレビは何処を回しても、大晦日だからだろうか。 派手な催し物を挙って放送していて、だからといって孤独が 埋められるはずもなく、助長されていくそれに舌打ちする。 何を、今更。 毎年のことじゃねえか。 クラスメイトが大晦日は何を見るだの議論していたのを 耳に留めたが、どの番組を見ても然して変わらないように 彼は思った。 それから、やっぱり感じている感情の正体に気付かされて眉を寄せる。 今更、今更だ。 今までそれを甘受してきたというのに、何故今更。 (景吾、寂しくないの?) 不意に、声が蘇った。 (あん?何で俺様が寂しいんだよ、バーカ) (だって、こんな広い屋敷で、一人でしょ) (寂しいわけあるか。慣れたら快適だぜ?) (俺は、寂しい) ふわ、っと羽根のような軽さで首に回された華奢な腕。 俺が居るから、何時でも言ってね。 睦言のように囁かれた唇。 何だ。 そうか。 お前だ。 お前が、いけないんだ。 お前が何時だって俺に孤独を与えるんだ。 ピーンポーンと響いたチャイムで、一瞬身じろぐ。 何時まで経っても聞こえない足音に、嗚呼、そうか今日は 自分以外誰も居ないのだと思い当たって渋々腰を上げた。 回廊を通って、玄関に。 それから、また、門まで歩いていかなければならない。 玄関の扉を開けると外は既に夜の帳が下りて久しく、 吐き出す息が白く凍える。 身震いして、コートでも羽織って来れば良かった等と 後悔した。 「・・・・・誰だ」 「・・・俺」 闇の中で呟かれた声は、微かなものだったけれど跡部がそれを 聞き違えるはずも無く彼は一気に駆け出した。 「リョーマ!」 門の外には小さな影が一つ。 白いショートコートにすっぽりと包まれて毛糸の帽子を被り、 彼は其処に居た。 「お前、何、寒いだろう、バカ!」 慌てて門を開けて、小さな身体を抱き寄せる。 予想に反して温かな子どもの体温が、切なくなるくらい綺麗に 馴染んだ。 「一番に、会いたかったの」 「・・・え?」 言うと、少年は携帯をパチンと開いて、間に合ったと笑った。 「俺にしては、かなり上出来」 10.9・8・7・6 「一番に言いたかった」 5・4・3・2・1 「Happy New Year!!」 流暢な英語でそう紡がれると、精一杯の背伸び、それからグイ、っと 引き寄せられて唇に柔らかな何かが当たる。 冷たいそれが彼の唇だと知覚するまで、そう時間は掛からない。 呆然と見詰めると、頬を紅潮させたリョーマが照れ隠しみたいに はにかんだ笑みを浮かべた。 「一番に、アンタに」 ハイ、と差し出される何かを見るとそれは所謂年賀状だった。 お世辞にも綺麗だとは言い難い字で、跡部の住所とそして氏名が 綴られている。裏面を返せば、このデジタル化の時代に、恐らく 試行錯誤したことが安易に読み取れる犬らしき絵が書かれた スタンプが押してあった。芋版。 拙さが、可愛らしい。 「・・・・コレ、犬かよ?」 「うっわ、ひどっ!! 「・・・恐竜みてえ」 「最悪!返せ、バカ!」 えいっとばかりにパンチを繰り出されるが、防寒のための手袋で 威力は然程無く、勿論リョーマだって本気で殴っているわけではない。 避けた拍子に、腕を取ると引き寄せてぎゅっと抱きしめる。 「―――――景吾?」 「――――――――――お前の所為だ」 「景吾?」 そうだ、孤独を与えたのも寂しさを知らせるのも、そしてこんなに、 こんなにも他人を愛おしいと感じる心を与えたのも、何時だって。 温かい身体、温かい心、何だよ。 何だよ、俺はずっと孤独だったんじゃねぇか。 「責任取れよ」 「・・・・え?」 何が?思わずきょとん、としたリョーマを見下ろす跡部は先程までの しおらしさが嘘のような、常の高慢な笑みでそう告げた。 「一番に会いたかった、なんて凄い殺し文句だな?」 「―――――!?」 ズボッ。 コートの下から思い切り突っ込まれた手は、上手い具合にセーターを 潜り抜け、器用にも下着まで通過して、脇腹を撫で上げる。 跡部はそのまま家から出てきたのだから手袋なんてしている わけがなく薄い皮膚に伝わる温度は、低い。 洒落にならないくらい、低い。 リョーマは飛び上がった。驚いたのと、冷たいのとで両方。 だけれども、所詮跡部の腕の中なのでしっかりと逃げ道は無い。 「お前体温高いな」 「ちょっ、アンタが低いんだよッ」 「うわー、温・・・」 「ひっ、や・・・!」 冷たい指先にビクッと身体が反応してしまって、しまった!と リョーマが恐る恐る跡部を顧みたときには既に時遅し。 ふうん?と意地悪げに呟いた恋人に後悔する。 ・・・・・・・・・仕方ないじゃないか、生理現象だ。 「やっぱり、責任取れよリョーマ」 「アンタさぁ、さっき除夜の鐘で煩悩祓ったばっかりじゃん!」 「人間の煩悩なんて、祓っても祓っても次から次に生まれるもんだろ」 「あー・・・最悪だ」 明日は起きたら初詣、手を繋いで出掛けよう。 神様がこんな不埒な恋人たちを祝福してくれるかは別として。 シリアスなのかギャグなのか甘いのか暗いのかちゃんぽんになったけど、 今年も宜しくお願いしますということで! 去年は色々メッセージを頂いたりだとか、感想を頂いたりだとか、 拍手を頂いたりだとか私の拙い作品に反応を返して頂いて感謝しております。 今年も皆様にとって萌えに溢れた素晴らしい一年でありますように★ |
| SEO | [PR] 花 冷え対策 再就職支援 わけあり商品 | 無料レンタルサーバー ブログ SEO | |