「私、そういうところが嫌なの。 私のこと何とも思っていないくせに」 だって、付き合ってくれって言ったのはそっちじゃん。 「今だって、別に傷ついていないくせに。どうでもいいくせに」 好きになろうとは思っているのに。 何で、好きになるまで待ってくれないの? 「思っていたのと、違うんだもん」 俺ってどんなイメージなんだよ。 「別れて?」 「いいけど」 言うと、傍から思い切り睨みつけられた。 だって、別れてって言ったのアンタじゃんか。 何で俺がそんなに責められなきゃいけないの。 非難めいた視線を女子の一部から受けて、それを流して何だか理不尽なんて 思っている。何もこんな日にそんなこと言わなくたって良いじゃん。 「越前も、フラれたんだ?」 冬休み間近でも少しも減らない練習量の部活、顔を出すと不二先輩が こっそりと耳打ちしてきた。耳打ちしなくても、こんな雑多なロッカー ルームでそれを咎める人間も聞き耳を立てる野暮な人間も居ないくらいに 騒々しいのにと思いつつ返事をする。 「あー、まあハイ」 普通、耳に挟んでも聞かないだろう。と思うけれど揶揄するでもなく 慰めるでもなくふうん、と呟いた彼を見たら何だか気が殺げてしまった。 それより、少々気にかかることがあったともいう。 「先輩」 「なに?」 「俺も、って。アンタもフラれたの?」 微妙な言葉のニュアンスに首を傾げると、ご名答、といつものアルカイック スマイルで言うものだから益々不可解だ。 不二先輩と、恋バナなんかしないしそもそも男同士ってあんまり恋愛の 話なんかしない。俺がそうなだけかもしれないけれど、少なくとも部活の 先輩に恋愛相談なんて持ちかけたことは一度もなかったし菊丸先輩とか 桃先輩に冗談交じりに言われることはあっても、不二先輩からそんな 話が持ちかけられるなんて思ってもみなかった。 何となく、そういう話をするのに抵抗がある人だった。 色素の薄い髪の毛や、男にしては勿体無いくらいに整った容貌が凛とした もので、色恋沙汰とか無縁な気がしていた。 「・・・・・あー、でも先輩プレイボーイなんですよね」 「誰に聞いたの」 俺が言うと珍しく眉を顰める。 「菊丸先輩。不二は、モテるからあんな涼しい顔してて、 実は結構経験豊富なんだよ〜って」 「・・・・・・・・英二め」 「で、フラれたの?」 話を戻すと、一寸だけ困った顔をされる。 「何かね、僕は冷たいんだってさ」 まるで他人事みたいにぼやくと、先輩は小さく溜息を吐いた。 「冷たい?そりゃあ、先輩は、熱血ってタイプじゃないけれど」 「そういうんじゃなくって。好きでもないくせにって言われたよ」 「あ」 思ったときには既に口に出してしまっていた。 「俺も同じこと言われた」 目を瞬かせる。ふうん?打って変わって、彼は少し面白そうに呟いた。 「越前も?」 「だって。好きだって言うから付き合ったのに、待ってくれないんだもん」 「何を?」 「俺が、好きになるのを」 「――――――君って、面白いね。 普通好きだから付き合うんじゃないの?」 「先輩だって、そうじゃん。 でも、何もこんな日に限って言わなくても良くないっスか」 「まあ、クリスマスイブだしね」 「おまけに、俺、誕生日なんで」 なんていうか。 そりゃ、確かに好きになっていなかったけれど。 やっぱり傷つく。 視線を落とすと、いきなりにガシっと肩を掴まれた。 「越前」 「何っすか」 「今日、僕の家においでよ」 「はぁ・・・?」 「御馳走するし。姉さんは、恋人と出かけるし弟は寮だし、 母さんは親戚の法事が重なって家にいないから僕一人なんだよね。 二人で、ビデオでも観ない?」 「・・・・・他の先輩は?」 「英二は、彼女いるし。手塚は、仏教徒だって言うし。 大石は家族団欒みたいだし、乾は練習メニューのデーターを 変更するために云々って言っていたかな? タカさんは、家の手伝いでしょ? 海堂はああみえて、家族大好きだからね。 桃城は彼女出来たって言っていなかった?」 「・・・・・・・・・言ってた」 「僕たち境遇も似ているみたいだし、偶には良いじゃない。 ゲームもあるし」 「行く」 二つ返事で頷いたリョーマにやっぱり不二は笑った。 不二の家は想像通り、洋風の洒落た大きな屋敷だった。 これで、和風の家に住んでいるってのも想像できないよなぁと出迎えて くれた彼を見て思う。 家の中には彼の話どおり他に人の気配がなく、綺麗な家であるから 余計に何か寂しく思えて、だから先輩も一人で居るの嫌だったのかなと リョーマはこっそり考えた。 「でも、俺呼ぶよりアンタなら女子、喜んで来るんじゃないの」 「それで、また『冷たい』とか言われて別れるなんて御免だよ僕は」 不貞腐れたみたいな言い方にリョーマはおや?と気付いた。 「先輩、結構傷ついているんだ」 「冷たいなんて言われて傷つかないほうが可笑しいと思うけど」 「言えてる」 「今日は越前の誕生日だしね。ぱーっと祝おうよ。 ワインでも飲む?」 言うと、高そうな人目で年代物と思しきワインを容易く棚から取り出して ラベルを眺める彼にぎょっとする。 ・・・・・・・・そうだ、この人あの菊丸先輩の悪友だった。 「ワインは・・・・」 「あれ?苦手?じゃあ、カクテルでも飲む?ミルク系なら僕作れるし 甘いから飲みやすいよ」 「・・・・・・・・・はあ」 思わず肯定とも否定とも取れない返事をしてしまったリョーマを他所に 不二は冷蔵庫を開け始めた。 未成年だから、とかそういった概念はとりあえず彼にはないらしい。 ・・・まぁ、折角の機会だし。 断るのも何だか憚られて、結局リビングで二人ワイングラスにカクテルを 注いで乾杯していたりする。 「じゃあ、越前と僕の失恋記念日もとい越前の誕生日にカンパーイ!」 「・・・・・・・かんぱーい」 半ば自棄でグラスをぶつけた。 「越前って、お酒、弱いの?」 数時間後、2・3度カクテルを部屋に運んだ後ソファーにころりと 寝転がって焦点の合わないリョーマに不二は問いかけた。 「・・・・・・・・みたいっスねぇ・・・頭グルグルする・・・・ でもぉ、先輩も、顔赤いよちょっと。ちょっとだけ」 「僕は強いよ。だって、これ、正真正銘ワインだもの。 君より飲んでるしね」 「俺もそれくらい飲めるもん」 「僕もまだ飲めるよ」 「先輩って負けず嫌いっすね〜。分かりやすい」 舌足らずに言うと、不二の飲んでいたグラスを奪い取り口をつけて リョーマは眉を顰めた。苦い。アルコールが咽喉を伝って熱いし、 段々眠くなってくるのは心地よいのか悪いのかとても曖昧だ。 「女の子には分かりにくいって言われるけど? だから、僕は冷たいんだってさ。誰にも固執しないから」 「嘘。不二先輩、分かりやすいよ。 アンタ、本当は色んなものが怖くってだからいつも何でも 平気な振りしてるんじゃん。全部、好きじゃないの。ホントは。 全部失いたくないから、結局何にも固執しないみたいに、見えるだけで」 でしょ? お酒の入ったリョーマはいつもより饒舌だ。 でしょ? もう一度言うと、いつもは笑わないような子どもっぽい笑い方をして 不二の肩をバシバシと叩いた。 不二は、といえばちょっと唖然としている。 「・・・・そう、かな」 「そうそう。見抜けない女子が悪いの。アンタが悪いんじゃないもん」 「じゃあ、越前も悪くないよ」 「ホント?」 「うん。君が好きになれるくらいの子が居なかっただけのことだよ」 不二の言葉に、一瞬大きな瞳を更に大きく見開いてそれからリョーマも 満足そうに頷いた。 「でしょ!?短気なんだよね」 「うんうん、君が好きになってくれるまで待たなきゃ」 「あー、もう不二先輩良い人! 不二先輩、大好きっ。美人だし、テニス強いし、料理上手いし、 優しいし!俺、先輩なら付き合いたい〜」 「ん、僕も君みたいに僕の本質を見抜いてくれる子と付き合いたいな。 幾らでも待つよ、僕だったら」 「俺たち両想いじゃん!」 「あはは、ホントだね〜」 両者ともお酒が入っているためか、それで一頻り笑う。 最後にはお互いがお互いのことを褒めるような、ある意味惚気合戦に 発展して発展したところで空になったワインのボトルに直接口を 付けつつリョーマが爆弾を投下した。 「先輩、俺と付き合って。俺が好きになるから、待ってて」 「良いよ。君賢いし。 可愛いし、面白いしさ」 うふふ、と笑う不二もあんまり大丈夫な状態じゃなかった。 一見して素面に見えるだけ、余計に性質が悪いかもしれない。 俺たち両想い!と再び言うとリョーマは勢い余って抱きつく。 随分華奢だなぁ、と思った。 白い肌、すんなりと伸びた手足、ふわりと薫るシャンプーの匂いは 部活動の後輩を連想するよりも先に女子みたいだと思う。 睫毛は長いし、目は大きし、唇はチェリーピンク。紅潮した薔薇色の頬。 越前って、整った顔をしていると思ったことはあるけれど 可愛いな。と思ったのはこれが初めてだ。 それを受け止めてやりながら、ボーっとする頭で霞がかかっていく 思考で不二も爆弾を投下した。 「キスでも、してみる?」 「はーい、はいはいっ!するっ」 「触っても良い?」 「お好きなよーにぃ」 暗転。 「・・・・・・・と、まあこんな流れで越前と付き合うことになったから」 明くる日は終業式だ。 全校生徒が集合する体育館に向かっている最中に不二は菊丸に話しかけて その度肝を抜いた。 「な・・・なんでおチビ!?ってか、なんで男!?」 「だって、越前可愛いし」 「答えになってねえよ!!お前ら何そんなマイペースなの!? 二人でクリスマスしたからって、普通後輩とくっ付くか!?」 「越前が言い出したんだもの」 「おチビは人より常識がない子なの! お前、それくらい分かってるだろうが!! え、てかマジなの!?」 「マジっすよ。人を可哀想なコみたいに言わないでくれない?」 「ぎゃあっ!?」 ひょっこり。 彼らの間から顔を出したのは渦中の少年だ。 「あのときは、まあ酔った勢いもあったんだけど」 「ひどーい、越前。酔った勢いで人を口説く?」 「でも良いかなって。 何か俺ら結構お互いが求めているもの一致するし。 先輩とのキス気持ちよかったし」 げほっ。 さらりさらさらと言ってのけた後輩に、先輩Kは噎せた。 「あ、覚えててくれたんだ」 「っス。でも、その後は覚えてないから分からないや。 先輩、俺に何したの」 「うーん・・・僕もそれ聞こうと思ってたんだよね。 キスまでは記憶にあるんだけど」 うーん。 手を口元に運び考えるような仕草をしていた彼は、はた、と何かに 思い当たったかのように手を打った。 「越前」 言うと、腰に手を回す。 「腰は、痛くない?」 「・・・・・・?多分」 「そう。じゃあそこは今後の発展次第かな?」 「不二ぃいいいいい!!」 菊丸が慌てて制止する傍らで、可愛い後輩は今ひとつ事態が 分かっていない顔で首を傾げていた。 いつもと違うテイストで書きたかった。 中学生っぽい二人。ふられたり、慰めあったり、遊んでみたり。 でも不二先輩は不二先輩でした。あれれ?私が書くとセクハラ大魔王に なります。あれれ? メリークリスマス! |
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