「不二先輩ってカッコいいよね」 教室の端ではしゃぐクラスメイトの女子の会話が何気なく耳に入った。 「綺麗!王子様って感じ」 「あはは、確かに。薔薇とか似合いそう!」 「絶対似合うって〜」 「先輩自体、薔薇っぽいもんね。綺麗な花って棘があるっていうか」 黄色い悲鳴が聞こえる。 移動教室に備えて、用意をしていたらクラスメイトの一人が溜息を吐いた。 「ああいうの、好きだよな〜女子って」 「王子様とか」 「不二先輩なら、確かに似合いそうだけど。 越前はどう思う?同じ部活だろ?」 トントン、と机の上で音楽の教科書、それにリコーダーを揃えて リョーマは別に、と然して興味なさそうに返した。 「そうかもね」 「何だよ、適当だなぁ」 「そ、適当なの俺。先行くよ」 階段を早足で昇る。 音楽室に行くためには、3年生の校舎を通らなければならないから。 出来るだけ、急いで急いで。けれど、走ってはならない。 目立ってしまうから。 ―――――分かってしまうから。 「どこ、行くの?」 ぞくりとする低音。ひやりとした微笑。 「ねえ、越前。話があるんだけれど?」 艶やかだ、艶やかすぎる。 秀麗で、煌びやかで、凛と咲き誇る。 「せ・・・・・・・・・・ん、ぱ」 「一寸、良いかな?」 この人は、紛れもなく薔薇。 その麗しい見た目に手を伸べれば触れるだけで傷つけられる。 それを見越した、真紅の血のように赤い薔薇。 階段の下のスペースは、さりげなく死角になる。 手を引かれるままに壁に追いやられて、俺を追い詰めて艶然と 微笑む彼の美しさばかりを人は評するけれど、その本質はもっと 鋭くそして残酷だと思う。 好きだ、と言われて逃げ出したのは彼の気持ちと真っ向から向き合うのが 只管に怖かった。それだけ。 何故なら俺はその表面の美しさばかりが彼の全てではないと知っているから それでも尚俺を好きだ、という彼を避けて逃げ出した。それだけ。 それが、どれほど先輩を傷つけるのかなんて考えてもいなかった。 先輩は綺麗。 強くて、綺麗。 綺麗なものが儚いなんてことはない。本当に美しいものは強いのだ。 きっと、きっと。 越前、と赤い唇が綴る空気が震えて身体に伝染した。 「越前。君を、傷つけてしまいたい」 まるで至上の愛を紡ぐみたいにして、物騒なことをこの唇は囁く。 「俺を?」 「そう、君を。手酷く手折って傷つけて、僕のこと、ひと時も 一瞬も刹那さえ忘れられないように」 この華奢な腕の何処にそんな力があるのかと思うくらいの力で押しやられた 手首はきっと痣になってる。彼の本質は、もっと残酷で凶暴で美しい。 抵抗できない現状を楽しむかのように、項に唇を寄せるときつく吸い上げた。 眩暈がする。 呼吸さえ、奪われる。 「アンタが」 先輩のにおい。 薄い香水の、エキゾチックなにおい。 「アンタが俺を手折るというのならば、俺もアンタを傷つけてやる。 じくりじくりと痛むように引き裂いて」 目を瞠ったあと、ふ、と笑う。 唇が重なった。 たおりていかん のなかのばら たおらばたおれ おもいでぐさに きみをささん くれないにおう のなかのばら 「懐かしい歌歌ってるな」 「うん、ちょっとね」 教室のベランダで風に乗せたメロディーに菊丸が反応した。 「薔薇に刺されちゃったから」 ふふ、と笑う不二に顔を顰めて痛そう!と大げさに彼は痛がった。 「保健室とかいかなくて良いの?絆創膏貰ってこよっか? ってか、何処怪我してんだお前」 「んー・・・敢えていえば、心臓?」 「何ソレ」 傷つけたい。 無茶苦茶に傷つけてしまいたい。 けれど、触れれば怪我をするのは此方だと彼は言った。 まるでのばらだ。と苦笑する。 傷つけてしまえば、そして同時に傷つけられてしまえば 何処までも二人忘れられずに居られるだろうか。 一生涯忘れられない傷になり得るだろうか。 僕は君にとってそれだけの価値を有する存在になり得るだろうか。 凛と咲く清らかな薔薇。触れれば手折ればこの手を傷つけるという 孤高の花、美しいプライド。 「散らしても、綺麗だろうね」 曖昧だった感情に明確な名前が見えてくる。 じくりと痛み掻き乱される心臓を抑えて、こみあげてくるのは 凶暴で、純粋な感情だ。 こういうとき画力が欲しいなぁと思います。マンガで書いてみたい。 タイトルは昔読んだ少女マンガからです。 不二先輩も、リョーマさんも薔薇ちゃん。 |
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