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真昼の秘密









春の陽気は室内にまで土足で無遠慮に侵入して、それどころか
思考力さえも汚泥の中に奪っていくような気がした。
それが厭わしいかと問われればそうではなく、この状況下にあって
それはいっそ救いにも思える。
髪を梳く掌が優しくて、何処か不釣合いだった。
言い訳ならば幾らでも出来るはずなのに、言い訳をしたいとは
一度たりとも思わない。
言い訳しなければ向き合えない関係にだけは成り下がりたくなかった。
望んだのは己だと何時も戒めのように繰り返す。
雁字搦めに囚われた身の上は、憐れに思う必要など何処にもない程
溺れきっている。重ねあう肌を楽しむのはお互い様で、こんな子どもの
身形の自分の何に男は欲情するのか越前は分からなかった。
跡部の手腕と容貌を以ってすれば、彼の自由になる女など恐らくは
掃いて捨てる程存在しように。
ぎしり、と彼の体重が掛かってうつ伏せに伏せた胸元で畳の青臭い
馨が鼻腔を擽る。幼い時分に嗅いだ草花の匂いと同質のそれに、
理由もなくただ切ない気持ちになった。
伸ばされた腕は所在無く、決して男の背に回したりはしない。
そんな、甘たるいことを望んでなどいない。彼も、己も。
宙を掻いて、それから撃ち落された小鳥のように力を
失ってはぱたん、と嘘くさい音を生んで床に落ちる。
畳の目を辿るように爪を立てた。食い込む感触。
何となく浮かせた意識に反射する天井は態々明かりを点さずとも、
充分に明るいので余計に被虐的な気分になる。
この関係が互いに奪い合うことではなく、せめて一方的な暴力で
あればこれ程壊したい衝動に疼かされずに済んだだろうか。
日は、未だ高い。
跡部が好んで肌を重ねたがるのは、こんなにも平穏な昼間だ。
一体何を考えているのか問おうとは思わないが、少しばかり
知りたいと思うそんな自分も確かに存在していることを認めている。
抑揚の無い台詞で、或いは感情を剥き出しにした憐れな物言いで
同じことを訊いても、同じ答えを返してくれるのだろうか。
後は、枯れるばかりだ。
花にしても、果物にしても、腐る前が枯れる前が尤もらしく
美しい。その虚構は愛すべき姿だ、と越前は熱に浮かされる頭で
滲む視界を見送った。
腐敗は、もう其処まで来ている。
白日の下に晒される媚態に跡部は薄く笑んだ。こうして、秘密も
何も無いくらいに虚構を虚構と思わぬくらいにこんなにも明るい
日差しの下で重ねあう事実は酷く愉快で、そして滑稽に他ならない。
自虐的なのか、それとも他虐的な衝動なのか区別がつかない、
その柔らかな子どもの咽喉元を噛み千切りたくなるような
劣情だった。押さえ込む肢体は、身体の下で縋り付く腕は畳に
爪を立てる。相反する視線は、お互いの顔を映すことが終ぞ無い
為に瞳から感情を読み解くのは無意味なことだ。
そう思った矢先に器用に傾けられた体勢の所為で、しかと跡部と
目線が一致した。正面から見据えて話すのは、越前の癖であり、
また跡部の癖でもある。普段何気ない会話を二人交わす際は最早
それとして意識さえもしない相手の眸を観察する機会がこんな形で
得られるとは多分互いに思ってもみなかった。こんな、風に。
こんな風に、彼が自分を見ているだなんてお互い考えたことが
なかった。潤んだ眸、憂いを帯びた視線は、そうだ春の宵の桜の
馨がする。桜は元来匂いの強い花ではない。寧ろ、思うのは
彼という形をとった花のことばかりだ。
白日の下、いびつな関係を浮き彫りにして密室で咲き誇るが
如くに腐敗は進む。刻一刻と。真昼に暴かれた廃墟のような部屋は
恐ろしく誇り高く、もう草の匂いも馨ってこない。
ただ在るのは、爛れて熟れた腐敗の、花の香りだ。
目を閉じることで、跡部を映さずに済むかと思えばそんなことは
なくて、密着した肌や重なる呼吸にその存在を思い知らされて
越前は笑った。きっと、跡部も同じように感じているという確証が
あったからだ。咲き誇る室内は、今が盛りとばかりに甘美な色を
滲ませて甘く甘く嗤う。綻びるように。
こんなにも日が高いのは、室内の影を浮き彫りにするため。
こんなにも日が明るいのは、秘密を孕んでいるからだ。












いつもと違う雰囲気、というか文体を狙ってみたんだけれど
難しいです・・・撃沈。雰囲気だけで読んでください。



















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