手を伸ばせば、届くところに光があり笑い声がさわさわと 途絶えがちに、だけれど決して途切れない波の音のように 繰り返す静けさ。幸福な夢を見た後は、決まって苦しい。 鴉の啼き声の届く夕暮れに、目を開ければまるでこの世の 終焉かと錯覚するような赤い闇。 伸ばした手は、誰の温もりにも触れることがなくて、 嗚呼世界に独りなのだと予感したから。 「―――――」 何だか、とても幸福な夢を見た。 甘い、蜂蜜のような、淡い憧憬。 瞼の裏で弾ける光の洪水、鮮やかな色、愛おしい人。 そうして、伸ばされた指先は温もりに巡りつく。 『―――――――――嗚呼』 聞こえるのは、子どもの穏やかな寝息で規則正しい呼吸。 触れるのは、未だ何の穢れも知らない甘い薄い肌だ。 此処にあるのは、紛れもない幸福の延長で目覚めても今だに 夢を見ているような気がした。 現実を、疑ってしまうような幸福だった。 冷房を入れっぱなしの室内では、寒かろうとブランケットを 片手で手繰り寄せて横に重なる身体に掛けてやる。 清潔な洗剤の馨と、それからほんの少しの太陽の匂いが 閉じ込められていて幸福に包まれた。 額に張り付いた黒髪をさらりと撫でて、それから跡部は キスを落とした。触れるだけ、そうっと、そうっと。 情欲の欠片さえも見せないキスを、交わすようになったのは リョーマと交際を始めて、それからだ。 愛おしい、と。 口に出さず、そう思ったのも。 此処は幸福の延長上に築かれており、 彼は幸福が形をとったもの。 寝返りをうつと同時に、微かな声が零れて、ゆっくりと 大きな眸が開けられていく。 目覚めの瞬間は、何より無防備でその素顔を晒す相手が 己であるということが只管に幸せに酔わせた。 「・・・・・・・・・よぉ、起きたかよ。お姫様」 「・・・・・・・・・・・・・・あの、ね」 「あん?」 「・・・・・・・・・・・・いま、すっごい、いいゆめみてた」 「―――――そうか、奇遇だな俺もだよ」 「で、アンタがめざめたらいて、それって」 「それって?」 「凄く、幸せだなって」 見上げた視線を、徐々に落として腕の中に再び沈んでいく彼に 跡部は暫し呆然とした後、笑った。 それが、あまりに綺麗でそして彼に相応しくない位の甘い甘い 笑みだったことに気付いた者は、残念ながら この場に居なかったけれど。 腕に抱き寄せた重みに、肌の感触に、安らかな寝息に、意識が 沈む。精神安定剤みたいなものだろうか、時折劇薬ともなる。 此処が、幸福の延長だと同じことを彼が考えているというのなら 外界の全てから、この幸福を打ち砕く不安から、二人を隔てる 何ものから、彼を悲しませる全てのものから、 「全力で、護ってやるよ」 ブランケットを被せた身体を包み込むように腕を回す。 抱きしめた感触が、確かに其処に息衝いていて 赤い闇に世界が喰われて、この瞬間二人きり世界から隔絶 されたとしても其処には何一つ怖れるものすら無いと思えた。 跡部様は何気に愛に餓えてそうな気がします。子供のころ両親が忙しくて 使用人に甘やかされて育ちつつ、孤独を感じていたんだみたいな 王道キャラのような気がします。・・・・妄想か。 二人でお昼寝。可愛いな。 |
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