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Sleep in heavenly peace

部屋の窓のカァテンを曳き、冷たく忙しい外界と遮断すれば

まるで楽園のように閉鎖的で、背徳的、だからこそ溺れる

空間が浮かび上がった。巷の喧噪と殊更に対照的な密室では

淡いランプの灯火だけが唯一の光源と成っている。

仄暗く、物体の影の薄らぐ室内は平生ならばおそらくは

不便なことこの上ないが、現在に限ってはひどく都合が好い。

傍に居る人の顔は目さえ慣れれば容易く見ることが適うし、

おまけに聖なる夜に何とも不謹慎ではあるが、

恋人と過ごす夜には雰囲気が、良いのだ。



幾度か終焉を予感し、其の度に裏切られて焦れる意識の合間に

リョーマが不二を見遣ると、ちらり、と確めるみたいに部屋に

掛けてあるアンティーク調の木彫りの時計に目を顰める彼が見えた

何を気にしているのだろうか、と不図気に掛ったがそれを引き摺る

余裕も、ましてや不二に訊ねる余裕も今のリョーマには無かった

ただ、薄らぐ意識を何とか保ちつつ、懸命に与えられる感覚を拾う

時折聞こえる、吐息に何だか対等な所に及んでいる気がして遠ざかる

身体を引き止めるよう、背中に手を廻した。


刹那、リョーマの顔を見て不二が柔らかに笑む。


この人の、こういう余裕からくるスマァトな処がキライだ。

とリョーマは意識の端で考えた。

熱を帯びていく身体に反して、常の如く不二の手は冷たい。

内側に触れられた時、ゾクリとしたものが

リョーマの身体の中を走ったがそれが、嫌悪感から来るものでは

無いことを意識せずとも彼は判っていた。

同時に刺激に対する自分の身体の変容も知覚させられて

羞恥に頬を染める


「・・・ん・・」


接吻を重ねられるのは、始まりと終焉の合図で。

来るであろう波に覚悟してリョーマは眸を瞑った。



「・・御免、一寸急ぐから。我慢して」


自分を見下ろして囁く不二の言葉にコクコクと肯く。

不二以上に、此方には余裕が無い。

必死な様子のリョーマを見て、少し済まなそうに

彼は其の指でリョーマの目尻に溜まった生理的な泪を掬い取った。


「大丈夫?」


自分でしておいて、大丈夫も何も無いよな。と思いつつも一応問う。

「ん、・・・じょ、ぶ」

「ごめんね」

「イイ、から」


謝るな、と睨むリョーマに其れでもごめんね、と再び言って

低く腰を進める。曖昧な快感の終わりに辿り着いて、今度こそ

リョーマは白濁した意識を放った。





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少し性急に事を進めた所為か、それとも此処の所互いに忙しくて

擦違うことが多く身体に触れる機会が無かった所為か、

リョーマは疲れきった、という様子で綺麗に敷かれた

真白な雪のようなシイツに顔を埋めた。


「・・・明日、部活休む」


大層不本意そうに呟く彼に、不二は苦笑した。

「うん、ぢゃあ僕も休むよ」


まあ、どうせこうなる事は予測出来ていたので予めそれと無く

チームメイトには伝えていたから、支障は無い。

年に一度のことだし、仕方ないカモね。と笑う級友の姿と

不機嫌そうに眉を顰める部長の姿を思い浮かべると

対照的で少し面白かった。


「アンタまで休んだら、怪しいぢゃんか!」

「何を今更。皆気付いていると思うけれど?」


応える不二にリョーマは頬を膨らませる。

確かにそうだ、皆気付いているに相違無い。

けれど、それは明らかにリョーマの所為でなく

不二一人の行動が占める部分がかなり大きい。

室温の低くは無い室内で、白く浮かびあがることは無かったけれども

思い切りこれ見よがしに、彼は大きく溜息を吐いた。


「―――で?言い訳くらいなら聞いてやるけど?」

「何のことかな?」

「惚けるなよ。何で、今日あんなに焦ってたワケ」


気付いてたの、と不二が平然と言う。

「なんだ、もっとゆっくり愛して欲しかった?」

「馬鹿?」

「うわ、ヒド」


結局何なのさ、と痺れを切らせたリョーマが再び問うと

脱ぎ捨てていた衣類を緩慢な仕草で拾い集めながら


「時計が十二時をまわる前に済ませておきたかったんでね」


と、不二が言った。

其の言葉にリョーマは怪訝そうに顔を歪める。

十二時?十二時に一体何が在ると言うのか、この男は。

よもや、魔法が解けて南瓜になる訳でも聖地に向かって

祈りを捧げる訳でも在るまい。

疑問符を頭に浮かべているリョーマの様子を察してか

寝間着に袖を通しつつ不二は続ける。


「今日、あ、もう昨日だね。二十四日は何の日でしょう」

「クリスマスイヴ」

「それと?」

「オレのバースデイ」

「十二歳最後の越前の近くに居たかっただけだよ。誰より、ね」


ポンポン、と臥せたままの頭を撫でられて、その意図を明確に

理解したリョーマはがばっと、効果音が出そうな勢いで起き上がる。

自分の置かれている状況も一瞬見事なまでに忘れていたリョーマを

鈍い痛みが襲った。


「・・・・ったー!!」


思わず、無様だと自覚しながらもへたり込む。


「ああ、ホラ。まだ休んでなきゃ駄目だよ?」


誰の所為だよ、と思う程優しく不二はリョーマを諭す。

それに、上手く流されてしまいそうな自分が彼は恐かった。


「何ソレ」


一寸涙目になりつつリョーマは呟く


「僕は、独占欲強いからね。

 つまりは、非道く君に焦がれて居るみたいなんだケド」


如何したらいいかな、と傍らに居た少年は応じた。


「オレの事好きだって?」

「そう」

「だから、アンタ馬鹿っていうんだよ」


そんなの、知ってるから。と付け加えた。


「でも、こういうことはきっと毎日でも言わなければ薄らいでいきそう」

「そう?」

「僕の、全ての行動は其れに基づいたものだし」

「アンタのそういうトコ、かなり不意打ち」

どういう意味?と、リョーマの言葉に不二が尋ねれば、

対応出来なくて困る、と小声で呟かれた。


其の言葉だけでもう結構充分なのに、と思う


言葉を、想いを受け取ってくれて

拙いながらも懸命に応えようとしてくれている幼い姿が愛しい


「十三歳、おめでとう」


「・・・アリガトウゴザイマス」


幸せだよ、僕は。といえば肯くリョーマを不二は抱き締めて

都合がイイなあと自嘲気味に思いながら、眸を閉じ

恐らく生まれて初めて形の無い神に祈った。




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