もう夕餉も済んだ時間に家の電話が響いた。 何時もの如く、母さんが逸早くそれに応じるとええ、はい、と 応じてから直ぐに俺の名を呼ぶ。 先輩からの、電話だった。 『花火をしない?』 電話の内容は至って簡素に纏めるとこんな感じ。 受話器の向こうで、息遣いも聞こえるような囁き方を常のように されて断れる筈も無い。一寸出掛けてくる、と言って即座に玄関に 走った。もう夜遅いんだからと心配する母さんの声が掛かるけれど、 大丈夫だって知っている。 だって。 「行こうか?越前」 玄関を開けると、其処には不二先輩の姿。 こうして携帯電話から家に来る直前に、急な誘いを入れる彼の癖も 最近は慣れたものだ。 俺は頷いて、差し出された手をそっと握る。俺よりも冷たい体温は そろりと融けてやがて等しい温度になる。 買いすぎたんだよ、と笑って結構な数の花火のパックを先輩は 軒先に並べた。じわりと滲む熱帯夜は、だけど風が弱くて 花火をするには多分絶好のコンディションだ。 花火を固定するテープやホッチキスを丁寧に除いていくと、 直ぐ傍にバケツも用意して花火に火を灯す。 「これを終わらせないと、夏が終わらないような錯覚が するんだ。毎年、毎年。こうやって夏を終わらせる」 先輩は暫し悩んだ後に、線香花火を手にとって火を点けた。 普通、それって最期にやるんぢゃあないの?と訊いてみると 僕は最後は鮮やかに終わらせたいと思う人間なんだよ。と言う。 確かに、線香花火で締め括る最後は、何だかとても切なくて、 酷く寂しいような、物悲しいような想いにとらわれてしまうことを 思い出した。線香花火を、よく人の命みたいだって言うけれど。と 更に彼は続ける。 「君の命は、もっともっとずっと鮮やかだと僕は思うよ。 丁度、そんな感じ。越前は」 そう言って彼が指差す俺の持った花火は、一瞬一瞬に色を変え、 先ほどまでは紫の光線が今では赤い火花を散らして囂々と燃える。 その言葉の真意を量りかねて首を傾げると、凄く、似ているよと 矢張り同じことを繰り返した。 「鮮烈で、眩しくて、焼付いて、綺麗」 シュン、と消えた花火の燃え滓を俺が地面に落す前に、先輩の 手からぽとりと小さな光を放つ線香花火が落ちていく。 その瞬間をまるでコマ送りの映画みたいに見送りながら、 長い長い接吻けをして 嗚呼、今年の夏も終わるんだ、と触れた肌に思った。 夏不二リョ。花火大好きです。日本の夏って何でこんな 素敵な風情が揃ってるんだ!と思う。 |
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