「年賀ジョー?」 誰だ、その外国人。みたいな発音で舌足らずな口ぶり。 何ソレ、と思わず問い返したリョーマに、もう慣れっこなのか 不二はNew Year's Cardだよ。と直ぐに通訳してくれる。 嗚呼、成る程と思ったがそれが何か?という気持ちが再び湧いた。 「此方の風習でさ、親しい人間とかお世話になった人には 送ることになっているんだよね。 だから、越前の住所も知りたいなって」 駄目?と微笑まれて、それを無碍に出来る人間を見てみたい。 少なくとも、自分は出来ないと知っていてやっているのだから殊更 性質が悪い。 冬は日増しに深まるばかりで、吐く息もいつの間にか切なげに 白く浮かび上がる。 「別に、良いッスよ」 努めて、ぶっきらぼうにそう返すとありがとう。と彼は微笑んだ。 誰にでも、そういう顔するくせに。と思わなくもないがただの後輩で それを言える立場にはないのだ。 嫌な奴になってしまう。 住所録には沢山の人名と住所が詰まっていて、それには女子の名前も チラホラと見受けられた。あ、何だか嫌な気分になる。 「先輩って、全部手書きにすんの?」 それだけの人に。 暗に込められた厭味に気付いたかどうかは定かじゃないが 「そうだね。出来れば、親しい人にはそうしたいな」 相変わらず綺麗に微笑んだ。マフラーに顔を埋める。 誕生日プレゼント、と彼に手渡されたのはコンビニで売っている ラムネ付きのくまのぬいぐるみだった。 ぽかん、としてそれと不二を交互に見比べた後、辛うじて口に 出来た言葉は何で?だ。 「だって、越前今日誕生日なんでしょ?教えてくれないんだもん、 知らなかった」 「・・・・別に、そんなの、いうことじゃない」 「急いで買いに行ったから、こんなのになっちゃったけど。 おめでとう。今日はクリスマスだし、ダブルで何かおめでたいね」 ひとまず、受け取ったそれを握る手に何だか実感が無かった。 目が潤むのは、冬場の乾燥の所為だと思いたい。優しくすんな。 馬鹿。それが八つ当たりだということも重々承知だ。 「先輩」 「うん?」 「先輩、が、好き」 恋と一緒で、言葉も落ちるものなんだ。と初めて思った。 ことり、と音すら立てずまるで雪が降り積もるのに少し似ている。 この街で雪は中々降らないのに、なのに。 「――――――行こうか?」 先輩は変わらず、微笑んで手を差し出す。 聞こえていたくせに、けれどそれを問い詰めて答を奪い取る勇気なんて 無かった。 言わずに済むのならば、冷たい墓の中にだって土の下にだって、 後生大事に抱えていこうと思っていた覚悟をアンタなら笑う? うん、と小さく言ってその手に手を重ねる。 俺は視線を地面に落とす。何の変哲も無いグラウンドの、冷たい砂が 微かに踏みしめる音を立てた。 きっと、一生忘れられない風景。 (あれだけ、平然と接してくるってどんな神経してるんだ) 溜息を吐くが、惚れたが負けってやつで俺はそんなどんな神経してるか 分からない見た目だけは美人な先輩を好きになってしまったのだ。 意地が悪い、とか性格悪い、とかこの人よく分からないとか度々思ったのに 人間って不思議なものだ。 元旦早々、こんな気が重いのなんて嫌だ。と思って気持ちを 切り替えようにも年賀状の仕分けは俺の仕事だった。 父さん。 母さん。 父さん。 父さん。 菜々子さん。 俺。 順序よくそれを分けていくと、今はもう懐かしいアメリカの友人の 年賀状だとか、今の部活の先輩たちからの年賀状だとか来ていて それぞれに個性が出ていて結構これは面白いかもしれない。 ・・・・・と、その中に不二周助、の名前を見つけたとき心臓が 大袈裟なくらい跳ね上がった。 (うわ・・・・・!!) 期待と不安が半分ずつ、でそれってどちらにしても心臓への負担が 半端じゃない。試合でどんな奴と対峙しても、俺ってこういう性格だし ちっとも怖いなんて思ったことが無かったけれど、怖い、と思った。 それを打ち消すみたいに、首を振る。 癖のあまり無いシンプルな文字は、本質を見極めにくい彼そのものの ようだ。綺麗な文字、と思ったがそれ以外の感想が出てこない。 今年の干支の図柄に加えて、謹賀新年。 決まり文句で明けましておめでとうございます。旧年は大変お世話に なりました。今年も宜しくお願いします。と書かれている。 ―――――律儀な人、だなぁ。 今どき珍しい印刷じゃない、手書きの文字にそう思った。 あれだけの人数分手書きでメッセージを書くとすれば、それだけで 大変な時間と労力だろうに、と思う。 怖れていた告白の返事は書かれていなくて、そのことに触れられて いないことにホッとしたし、ガッカリもした。複雑だ。 「先輩の、バーカ・・・」 薄い柑橘類の香がする。 そっか、蜜柑?甘酸っぱくって、切なくなる。 「おっは〜!おチビちゃん今年も宜しくねん!!」 「先輩・・・重たい」 新学期始まって早々、朝の慣れた風景だ。 菊丸に抱きつかれて、げんなりとした面持ちで言うリョーマに傍らで 不二がクスクスと笑う。 「英二、退いてあげなよ。越前潰れちゃうよ」 「だってぇ、おチビジャストフィットなのに」 言いながら渋々といった感じで退いた彼にホッとして、横を見た。 不二は相変わらずで、自分も相変わらずで。 良かった、と息を吐く。 「そういえば・・・・不二先輩ってマメなんッスね。 俺いちいち手書きとか無理だもん」 「へ?おチビちゃん不二から手書きの年賀状貰ったの?」 リョーマの言葉に菊丸が吃驚、という面持ちで話したので今度は リョーマが吃驚してしまった。 え?如何いうこと?違うの? 「不二ってこう見えて面倒くさがりだから〜俺らチームメイトでも きっちりしたパソコンの文体だよ。らしいって言えばらしいけどさ」 「へ・・・・?」 どういうこと? 目を瞬かせて、隣に居る不二を見ると何やら呟いて、それから困った顔を した。珍しい。 「・・・・・・・・・・因みに聞くケド、越前炙り出しって知ってる?」 「あぶりだし?何ソレ」 「あぁ・・・・・・・・・・・うん。いいや、そんな気がしてた」 どんな気だよ。 思わず突っ込みそうになるが、一寸凝り過ぎたかな、と不二は言う。 ―――――話が見えない。 「どーいうコトっすか?」 「さあね。自分で考えたら?何でも分からないことを人に聞くのは 悪い癖だよ」 「なっ・・・」 意地悪!唇を尖らせる。 僕だって、分からないのに。といつもの余裕のある笑みじゃなくって 心底困った面持ちで不二が言うから、更に混乱する。 「君には回りくどいことしてもしょーがいないって分かった」 「だから、どーいう・・・っ」 ぎゅっ。 後ろから圧し掛かられて、腕が回される。 一瞬、何が何だか分からなかった。分かったのは、人の重みと温もりで。 くるり、と前を歩いていた菊丸が此方を顧みて、破顔する。 「何じゃれてんの、二人とも!置いてくよ〜!」 ホント、ジャストフィット。と囁く声がやたら近くで聞こえた。 年賀状で青春話。今はメールとかのほうが主流なのかも知れないけど だからこそ年賀状って特別な感じがするよね。 この年頃って、好きな人から年賀状来るだけでもかなりドキドキじゃないですか? 炙り出しは、不二先輩風流っぽいから(笑)一生懸命考えて書いてたと思うと ちょっと可愛い。何て書いてあったかは、リョーマさんが炙り出しが何かと いうことに辿り着くまで半永久的に謎です。 ちょっと早いけど。来年も宜しくお願いします。 |
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